表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/130

王女同行護衛任務と、最悪の休憩時間

アスタナの満面の笑顔を見た瞬間、俺の頬がぴくりと引きつった。


「……よろしくお願いします」


 力なく答えると、アスタナは満足そうに頷いた。


 今回の依頼は、西方の街に行って“ある物”を受け取り帰還するだけ。護衛は四人、馬車移動で三、四日程度の簡単な仕事らしい。報酬も期待していいと言われている。


(よし、金のためだ。仕事だけに集中しよう)


 そう割り切った――はずだった。


 だが、護衛の列の中に見覚えのある顔があった。


「ウィル? 今回はお前も来るのか?」


「はい。実績が評価されて、今回から正式に護衛任務に加わることになりました」


 以前のような憎悪のこもった目ではない。最初に出会った頃の、おどおどした優しい目に戻っている。


(……時間が解決したのか)


「よろしくな」


 笑顔で手を差し出すと、ウィルは少し驚いたあと、ぎこちなく握り返してきた。


 ――出発直前。


「俺は馬と同じように走れるから、馬車は必要ないです」


 そう提案したが、即座に却下された。


「王女命令です」


 きっぱり言われ、俺は再びアスタナと馬車に乗る羽目になる。


 今回は数日かかるため、侍女のクレアも同席していた。


 座席配置は、俺とアスタナが並び、向かいにクレア。


「俺の隣じゃなくて、彼女の横に座れば?」


「それはダメです! たけるさんに聞きたいことがあるんです!」


「……はぁ」


 嫌な予感しかしなかった。


 そして、その予感は的中する。


「同居している女性がいるのは知っています! ですが! 毎日一緒に眠り、お風呂も共にするなど不謹慎ではありませんか!?」


「いや、寝てはいますがベッドは別ですし、風呂も一緒に入ったことはありません」


 冷静に答えたつもりだった。


 だが、アスタナの眉がぴくりと動く。


「嘘はやめてください! ルナさんから全部聞いています!」


(……あいつ、何言ったんだよ)


 笑顔のルナが脳裏に浮かび、軽く殺意が芽生える。


「ルナの話は誇張が多いです。全部を真に受けないでください」


 それが火に油を注ぐ結果になった。


「どうして嘘をつくんですか!? お母様からも聞いています! もう、しずかさんとは子作りをしているんですよね!? なら、私ともするべきではありませんか!?」


(……意味が分からない)


 腕を掴まれ、離そうとしてもびくともしない。


(めんどくせー……)


 心の底から思った。


 のらりくらりと受け流しながら時間をやり過ごすが、クレアが時折アスタナを焚きつけるような言葉を挟むせいで、状況は悪化する一方だった。


 そんな時――


「休憩に入ります」


 馬車が止まった。


(やっと落ち着ける……)


 そう思ったが、周囲は何もない平地と木々があるだけの場所。


「休憩って何ですか?」


「馬の休憩と、出すものを出す時間です」


「クレア!? 言い方が下品です!」


「失礼しました。トイレ休憩です」


 なるほど。


 だが、トイレなんて見当たらない。


 見ていると、護衛たちが順番に茂みへ入っていく。


(……なるほど、そういうことか)


 全員が終えると、クレアが声をかけた。


「ではアスタナ様、参りましょう」


「そうね」


 二人が馬車から降りる。


 だが、アスタナがくるりとこちらを見る。


「今回は護衛ですよね? 何かあっては困ります。ついてきていただけますよね?」


(いやいや、それはおかしいだろ)


 反論しようとしたが、


「王女様の命令です」


 クレアに言われ、強引に連れていかれる。


 ――最悪の休憩時間が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ