箱の行方と、告白フラグの行方
透明な箱が完全に開いた瞬間、ローブを羽織った老人のひとりが、思わずといった様子で声をあげた。
「おお……!」
その声に合わせるように、ユリアナがゆっくりと息を整え、場を見渡してから言葉を紡ぐ。
「よくやってくれました。
それで……この札についても、何かわかるのかしら?」
期待を込めた視線がアブソルへ向けられる。
アブソルは一瞬だけ困ったように頭を掻き、正直そうに口を開いた。
「申し訳ありません。箱の構造は理解できましたが……この札については、さっぱりです」
「そう……」
ユリアナは軽く頷き、今度はローブの老人たちへと視線を移す。
「あなた方も、この札に心当たりは?」
「ございませんな」
「少なくとも、我々の知る文献には見当たりません」
「……そう」
短くそう告げると、ユリアナは一度思案するように視線を落とし、すぐに結論を出した。
「では、この箱と札は城へ持ち帰らせていただいてもよろしいかしら?」
たけるは一瞬だけしずかの方を見て、問題ないことを確認してから頷く。
「大丈夫です。お願いします」
「ありがとう。
わかり次第、必ず遣いを出しますわ」
そう言って踵を返しかけたユリアナだったが、ふと足を止め、今度はアブソルの方へ振り返った。
「それと……あなたが作っている品々に、とても興味が湧きました」
「えっ?」
「後日、使いの者を向かわせます。
いくつか“使えそうなもの”を選定しておいてくださるかしら?
もちろん、正当な対価はお支払いします。無償で受け取るつもりはありませんから、安心なさい」
その言葉に、アブソルの顔がぱっと明るくなる。
「は、はい! ありがとうございます! 精一杯、選ばせていただきます!」
満足そうに微笑んだユリアナは、護衛と共に家を後にした。
扉が閉まった瞬間、家の中に張り詰めていた空気が、ふっと緩む。
「……いやー、びっくりしたよ」
そう言ってアブソルが大きく息を吐き、肩を落とす。
「まさか王妃様に直接お会いできるなんてね。人生、何があるかわからないなぁ」
「ほ、本当にそうです!!」
今にも泣き出しそうな顔で、ゆなが大きく頷く。
「私、途中から心臓が口から出そうでした……!
何か失礼なことをしたら、その場で連れて行かれるんじゃないかって……!」
「そこまでじゃないと思うけどな」
たけるが苦笑すると、対照的な二人の様子に自然と笑いが起きた。
その笑い声で、ようやく“いつもの日常”が戻ってきた気がした。
「じゃあ僕は、王妃様にお渡しする品を厳選しに戻るよ!」
アブソルはそう言って、妙に張り切った様子で帰っていった。
「たけるさんが王城に行ったことは知ってましたけど……」
ゆながぽつりと呟く。
「まさか、私が同じように王妃様とお会いすることになるなんて、思ってもみませんでした……」
「この国の上の人たちは、わりと話の通じる人が多いからな」
たけるは気楽に言う。
「まあ……頭のおかしな王女もいるけど」
アスタナの顔が脳裏に浮かび、思わず遠い目になる。
「ゆな」
しずかが静かに声をかける。
「この家に住む以上、これから先も王族と会う機会は避けられないと思う。
でも、変なことをしなければ問題にはならない。たけるの言う通り」
「そ、その“変なこと”が分からないんです!!」
涙目で縋るゆなに、しずかは小さく頷いた。
「……わかった」
そこから、しずかによる“王族と接する時に気を付けること講座”が始まった。
ゆなは真剣な顔でうんうんと頷き、たけるも横で「なるほどな……」と内心メモを取る。
一通り話が落ち着いたところで、たけるはふと違和感に気づいた。
「あれ……そういえばコウヘイは?」
部屋を見渡すと、少し離れた場所で、コウヘイが妙に真剣な目でゆなとしずかを見つめていた。
「……なにしてるんだ?」
「お前が過ごしてる日常を、目に焼き付けてた」
「……そうか」
「いつもこんな感じなんだろ?」
「……まあ、そうだな」
短い会話のあと、コウヘイはしばらく黙り込む。
そして、突然拳を握りしめた。
「俺も……可愛い彼女が欲しい!」
「急だな」
「ルナさんに告白するべきか!?」
「……好きなら、した方がいいんじゃないか?」
たけるは素直にそう答えた。
「だよな! よし、俺、ルナさんに告白する!!」
勢いだけは十分だ。
たけるは「頑張れ」と声をかけつつ、胸の奥で小さく思う。
(……まあ、結果はだいたい見えてるけど)
そこで、ふと疑問が浮かんだ。
「……で、そのルナ、今どこ行った?」
その瞬間、なんとなく嫌な予感が胸をよぎった。




