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ガラクタ屋と失われた技術

突然のノックに、室内の空気が一変した。


 ユリアナは一歩だけ後ろへ下がり、護衛が二人、素早く玄関の前に立つ。


「誰だ?」


 低く鋭い護衛の声。


 すると、扉の向こうから、どこか間の抜けた声が返ってきた。


「たけるくんかい!?

 ちょっと渡し忘れたものがあってさ、届けに来たんだけど……開けてもらえるかな?」


 一瞬の沈黙。


 護衛同士が視線を交わし、ゆっくりと扉が開かれる。


「ごめんよ!」


 顔を出したのは、あの古ぼけた店の店主だった。


「これ、予備になるから受け取っておいておくれ」


 いつもの調子で笑顔を向けるが――その視線の先にいるのは、王妃に護衛、そして大勢の人間。


「……お邪魔だったかな?」


 さすがに空気を察したのか、額に冷や汗を浮かべる。


「何者だ?」


 護衛が一歩前に出る。


「え、えっと……僕はただの店主で……たけるくんに頼まれた装飾品を作っただけなんだ!

 渡し忘れたものがあって、それを……!」


 必死な弁明に、俺が口を挟む。


「すみません。この人は俺がしずかに渡す指輪を作ってもらった店主です。

 害はないです」


 その言葉に、護衛はゆっくりと警戒を解いた。


 店主――アブソルは、居心地悪そうに俺へ小さな包みを差し出した。


「磁石の予備だよ。念のためね」


「ありがとうございます」


「じゃ、僕はこれで……」


 逃げるように帰ろうとした、その時。


「お待ちなさい」


 ユリアナの声が、静かに止めた。


「それは……何ですか?」


 その瞬間だった。


 アブソルの表情が、ぱっと明るくなる。


「ああ!それですか!

 これはですね――」


 そこから先は、完全に職人の世界だった。


 磁石の性質、装着の仕組み、外れやすさと安全性。

 周囲が引くほど熱心に語るアブソルに、誰も口を挟めない。


 一通り聞き終えた後、ユリアナが穏やかに尋ねる。


「制作には、どのくらいの期間がかかりましたの?」


「半日ほどですね。

 予備も含めると、もう少しですけど!」


 その答えに、ユリアナの眉がわずかに歪んだ。


「……たける。

 どのような品か、見せてもらえるかしら?」


「はい」


 俺は部屋へ戻り、しずかに渡す予定だった指輪を持ってきて差し出した。


「ネックレスでは不安があったので、指輪型にしてもらいました。

 先日、こちらの店主に」


 ユリアナは無言で指輪を手に取り、じっくりと観察する。


「……これを、半日で?」


「はい。初めて見る構造だったので、少し時間がかかってしまいましたが」


 ユリアナの眉間のしわが、さらに深くなる。


「……お名前は?」


「アブソルです」


 一瞬、ユリアナは彼の顔をじっと見つめ、それから問いかけた。


「ご家系に、“細工師”と呼ばれる者はいませんでしたか?

 現存していなくとも、血縁で構いません」


「いえ……」


 アブソルは首を振る。


「僕は平民として普通に暮らしてきました。

 興味があって、色々作ってるだけのガラクタ屋ですよ」


 嘘は感じられなかった。


「……そうですか」


 ユリアナは一度、目を伏せる。


「その男に、箱を見せなさい」


 護衛が一瞬ためらうが、命令には逆らえず、透明な箱を机に置く。


「いいんですか?」


 困惑しながらも、アブソルは箱を手に取らず、様々な角度から覗き込む。


「ほう……」

「なるほど……」

「……これは、面白い」


 ぶつぶつと呟きながら、真剣な眼差しで観察を続ける。


「その箱を、開けることは可能かしら?」


 ユリアナの問いにも気づかないまま、しばらくして――


 アブソルは顔を上げ、にこりと笑った。


「少し難しいですが……

 この箱、開けられますよ」


 その言葉に、部屋の空気が一気に張り詰めた。


 誰もが息を呑む中、俺は思った。


 ――この家、本当に普通じゃない場所になってきてないか?


 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

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