開かない箱と、笑顔の王妃様
屋根裏から降りると、全員が自然とテーブルの周りに集まっていた。
中央には、例の透明な箱。中には、古びた札が数枚、きっちりと収められている。
「……で、これどうやって開けるんだ?」
コウヘイが箱を持ち上げ、ぐるりと回してみる。
だが、どこにも鍵穴らしきものはない。継ぎ目も見当たらず、蓋らしい部分すら見えなかった。
「どうやって入れたんだよ、これ……」
「作った時点で封じた、とかですかね……」
ゆなが恐る恐る覗き込みながら言うが、どれも推測の域を出ない。
「貸して」
次の瞬間、ルナが箱を受け取ったかと思うと――
「えいっ!」
ドンッ!
かなり本気のパンチだった。
「ちょっ――!」
止める間もなく、拳が箱に当たる。
バチッ!!
静電気が弾けたような音が響いた瞬間、ルナの身体が後方へ吹き飛んだ。
「うわっ!」
床に転がるルナ。
全員が一斉に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「怪我してない!?」
「……う、うん。びっくりしたけど、大丈夫みたい」
ルナはキョトンとした顔で身体を確認する。
擦り傷ひとつない。
「……なに今の」
「触っただけで弾かれるとか、完全にヤバいやつだろ」
コウヘイが顔を引きつらせる。
その時、しずかが箱を静かに見つめながら口を開いた。
「これは……普通の人間では開けられない」
いつもと変わらない淡々とした声。
だが、迷いはなかった。
「王城へ一度持っていった方がいいと思う」
「え、でもさ……」
「俺たちがいきなり行ける場所じゃないよな」
姫が来ることはあっても、こちらから王城へ行くなんて前例がない。
どうしたものかと考えていると、ルナがぱっと手を挙げた。
「じゃあ、私が頼んでみる!」
「……は?」
「ちょうど報告もあるし。顔も売れてるしな!」
爽やかな笑顔だが、嫌な予感しかしない。
「いや、ちょっと待て」
「大丈夫大丈夫! 行ってくる!」
止める間もなく、ルナは箱の存在だけを頭に入れて、軽い足取りで出ていってしまった。
……頼むから変な話を盛らないでくれ。
ルナが王城へ向かっている間、時間が空いた。
「せっかくだし、屋根裏も全部掃除しちまうか」
「だな」
俺とコウヘイで再び屋根裏へ。
埃を払い、隅々まで探したが、出てくるのは古い木箱や使い道のない板切ればかり。
透明な箱以外、特別なものは何もなかった。
「なんもねぇな……」
「まあ、掃除できただけ良しとするか」
掃除を終えて戻ると、今度はコウヘイが、
「もう一回風呂入りたい」
と言い出した。
「さっき入っただろ……」
「気持ちよかったんだよ!」
結局、もう一度湯を沸かし、コウヘイが風呂へ。
その間、俺とゆな、しずかはいつもの椅子に座り、のんびりしていた。
――と。
こんこん。
控えめなノック音が響く。
「……ルナ、もう戻ったのか?」
俺がドアを開けると、そこに立っていたのは――
にこにこと柔らかな笑みを浮かべた、白銀の長髪の女性。
「ご機嫌よう」
その後ろには、護衛が二人。
一瞬、思考が止まった。
「……え?」
「入れてもらえるかしら?」
王妃、ユリアナだった。
慌てて家に招き入れる。
護衛を含め、椅子に座ると、部屋の空気が一気に変わった。
「今回は少しお話を聞く必要がありまして、わたくしが参りましたの」
にこにこしながら言うが、威圧感はない。
「びっくりしたでしょうけど、畏まらなくて大丈夫ですよ?」
……無理だ。
横を見ると、ゆなの顔は真っ青。
次の瞬間――
「は、ははーっ!!」
なぜか椅子の上で正座し、深々と頭を下げる。
ゴンッ!
「いたっ!」
勢い余って机に頭をぶつけた。
その様子を見て、ユリアナがくすっと笑う。
「ふふ……元気で可愛らしい方ですね」
場の空気が、少しだけ和らいだ。
――どうやら、今日もこの家は、ただでは済まないらしい。




