屋根裏部屋と、眠っていた秘密
朝、ゆっくりと目を開けると、至近距離に赤い瞳があった。
「……おはよう」
先に声を出したのは俺だった。
「おはよう」
しずかはいつもの調子で、感情の起伏はほとんど見えない。だが、確かに俺を見ている。
「今日も俺のベッドに入ってきてたんだな」
「……安心できるから」
それだけ言って、しずかは少しだけ身を寄せてくる。
最近はこうやって起きることが増えた。姿が消えてしまうんじゃないかという不安があるのかもしれないし、ただ単にここが落ち着くのかもしれない。
悪い気はしない。俺は何も言わず、静かに受け入れた。
二人で起き上がり、テーブルのある部屋へ向かう。
誰かが先に起きているかと思ったが、家の中は静まり返っていた。
湯を沸かし、お茶を淹れる。
並んで座り、特に会話もなく湯気を眺めるこの時間は、妙に心地いい。
「……朝ごはん、作る?」
「うん」
二人でゆっくりと準備を始めた頃、足音がして、ゆなとルナが姿を現した。
「おはようございます」
「おはよう!」
相変わらず対照的な挨拶だ。
ルナは寝起きにしてはそこまでぐったりしていない。
「昨日は夜までたっぷり話したからさ。姫さんからもらえる銀貨、期待できそうなんだよね」
妙に嬉しそうに言うルナを見て、俺は内心で(何を話したんだ……)と警戒した。
全員揃ったところで朝食にしようとしたが、一人足りない。
「……コウヘイは?」
「まだ寝てるんですかね?」
様子を見に行こうとしたその時、玄関の扉が開く。
「おはよう!!」
やたら元気な声と共に、コウヘイが現れた。
その手には、木製の脚立のようなものが抱えられている。
「何してたんだ?」
「いやー、家の探索するって言ってただろ? 上見る用のやつ、必要だと思ってさ」
「朝からそれ探しに行ってたのか……」
理由を聞けば、一人で寝るのがつらくて早起きしたらしい。
「どうせなら役に立って、次は誰かと一緒に寝る権利を勝ち取ろうと思ってな!」
「……うん」
その願いが叶う未来は、たぶん来ない。
朝食を済ませ、少し休んでから家の探索が始まった。
掃除もしつつ、まだ見ていない場所を探すという、どこかピクニック気分な作業だ。
「ここは下着置いてあるから触らないでね」
「了解!」
ゆなの注意を受けつつ、それぞれ分かれて確認していく。
棚の裏、使っていない部屋、物置。
だが、特に目立った発見はない。
「やっぱり何もないかー」
「そうですね……」
ほぼ掃除だけが終わりかけた頃、突然、コウヘイが声を上げた。
「おい! ここ怪しくないか!?」
指差したのは、しずかが以前よく床に寝ていた部屋の天井付近だった。
よく見ると、微妙に板の色が違う。
「……確かに」
「脚立、使うぞ!」
コウヘイが持ってきた木の脚立を立て、天井を軽く押す。
――ぎい、と音を立てて、正方形の扉が開いた。
「屋根裏だ!」
「このまま先に行く!」
そう言って、コウヘイが真っ先に登っていく。
「待て、俺も行く」
俺も後を追った。
中は中腰にならないと動けないが、思った以上に広い。
埃っぽく、長い間誰も入っていなかったことが分かる。
「意外と奥あるな……」
先を進んでいるコウヘイの背中が、薄暗い中にぼんやり見える。
何かないかと目を凝らしていると――
「たける! これ見ろよ!」
大きな声が響いた。
動きにくい中を進み、コウヘイの元へ行く。
そこには、小さな透明な箱が置かれていた。
中には、数枚のお札。
ただの紙切れではない。
どれも、古く、だが丁寧に保管されているのが分かる。
「……これ、ただのお札じゃないよな」
「だよな。普通、こんな風にしまわねぇ」
俺は無意識に、しずかのことを思い出していた。
この家に縛られている理由。
ここから出られない原因。
――もしかして。
下から、ゆなの声が聞こえる。
「何かありましたか?」
「……ちょっと、面白いものが出てきた」
そう答えながら、俺は透明な箱をそっと持ち上げた。
この屋根裏に眠っていたものが、
しずかの“何か”に繋がっている気がしてならなかった。




