男二人、湯気の向こうで見た現実と理想
しずかも風呂から上がり、髪を軽く拭きながら部屋へ戻っていく。その後ろ姿を見送ってから、俺はコウヘイの方を振り返った。
「じゃあ、次どうぞ。先に入ってきなよ」
そう言うと、コウヘイは首を傾げてニヤリと笑う。
「いや、一緒に入ればいいだろ」
「……は?」
一瞬、意味が分からず固まったが、コウヘイはもう脱衣所へ向かっている。
「男同士だろ? 減るもんじゃねぇし」
「いや、そうだけど……」
なぜか変なテンションになりつつも、結局一緒に風呂へ向かうことになった。
コウヘイは豪快に服を脱ぎ捨てる。
露わになった身体は、無駄のない筋肉がついた見事なものだった。
「……相変わらず、いい身体してんな」
思わずそう口にすると、
「お、たけるもな。細いけど締まってる」
そう言って、肩口を軽く叩かれる。
「やめろ、くすぐったい」
俺も同じようにコウヘイの肩に触れてみる。
以前なら、変に意識したかもしれない。だが今は、ただ「いい体だな」と素直に思っただけだった。
その瞬間、なぜか脳裏に浮かんだのは、しずかの柔らかい感触だった。
「……なんで今それ思い出すかな」
自分でもよく分からず、小さく苦笑する。
身体を洗い終え、二人で湯船に浸かる。
「はぁぁぁ……」
コウヘイが深く息を吐く。
「気持ちいいなぁ……」
その声があまりにも“日本人の風呂の入り方”そのもので、思わず笑ってしまった。
「なんだよ?」
「いや別に、気持ちよさそうだなーっと思ってな」
最初は少し気まずいかと思ったが、ただの友達同士の風呂だった。
変な緊張もなく、普通に楽しい。
風呂から上がり、食事の部屋へ行くと、女性陣三人が料理を並べたり、皿を出したりしていた。
「手伝うよ」
そう声をかけると、
「もう終わるから大丈夫ですよー」
ゆなが笑顔で答える。
俺は先に椅子へ座ったが、コウヘイはなぜか立ったまま固まっていた。
女性三人が動き回る様子を、先ほどと同じ熱量の視線で見つめている。
「……コウヘイ」
「ん?」
「とりあえず、座れって」
視線は動かさず、身体だけ椅子に沈む。
イケメンのはずなのに、どこか残念だ。
食事は終始和やかに進み、笑い声の絶えない時間となった。
その流れで、明日は「片付け」という名目で、家の中をみんなで探索しようという話になる。
「面白そうだな」
「暇つぶしにはちょうどいい」
二人とも快く引き受けてくれた。
さて、問題は寝る場所だ。
「女性陣と男性陣で分かれて寝ればいいんじゃない?」
俺が提案すると、
「待て待て!」
コウヘイが勢いよく手を上げる。
「せっかくだし、全員一緒に寝ようぜ!」
その目がやたらとギラついている。
「さすがに男性と一緒は……」
ゆながやんわり断る。
「じゃあ、女性陣と男性陣で分かれよ!」
ルナが即座にまとめに入る。
その時、しずかが静かに口を開いた。
「……私は、いつも通りたけると一緒に寝る」
一瞬、空気が止まる。
「いつも通り?」
「一緒に寝る?」
コウヘイとルナの反応は対照的だった。
「付き合ってるなら当然か」
ルナはあっさり受け入れるが、
「……ちくしょう……」
コウヘイは血涙でも流しそうな顔だ。
「じゃあ、コウヘイは空いてる部屋で一人な」
「えっ!? 嫌だよ!」
「……たけるとの時間は、邪魔しないで」
しずかの一言に、コウヘイは崩れ落ちた。
だが諦めきれず、今度はゆなの方を見る。
「じゃ、じゃあ三人で――」
「女同士で話もあるからダメ」
ルナが即座に切り捨てる。
「ほら、行くよ」
そう言って、ゆなと一緒に部屋へ向かっていった。
「……また明日な」
俺が声をかけると、
「覚えてろよ……」
小さな恨み言が返ってくる。
結局、俺としずかはいつも通り同じ部屋へ。
背後から聞こえた「ちくしょう……」という声を無視し、布団に入る。
隣で、しずかが静かに身を寄せてくる。
騒がしくて、少し疲れた一日だった。
それでも、こんな日常が続けばいいと、自然と思えた。
そうして俺たちは、いつも通り眠りについた。




