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ぬるいエールと、冷やしすぎた魔法

この世界に来て、二週間ほどが経った。

 相変わらず土木工事の仕事を続けているが、その中で一人、自然と話すようになった男がいる。


 コウヘイ。

 年齢は俺と同じ二十三歳。

 名前だけ聞けば日本人っぽいが、見た目は金髪のウルフカットで、顔立ちも整っている。身体つきは筋肉質で、正直――かなりいい男だ。


 今日は仕事終わりに、二人で酒を飲むことになっていた。


 俺が密かに楽しみにしていたのは、エールと呼ばれるこの世界の酒だ。

 テンプレ的なビールらしい、という話を聞いて、少し期待していた。


 仕事を終え、俺とコウヘイは「キコリ」という、香ばしい匂いの漂う酒場に入った。


「ここで飲むエールと料理は絶品だぜ!

 絶対に気に入るはずだ」


 にこっと笑うコウヘイの顔に、思わずドキッとする。

 ……いかんいかん。今は酒だ。


 席に着き、料理と一緒にエールが運ばれてくる。

 木製のジョッキに注がれた、黄金色の液体。


「乾杯」


 軽くジョッキを合わせ、俺はエールを喉に流し込んだ。


 ごくごく。


「……ぬるっ」


 爽快感、ゼロ。

 むしろ不快。


 コウヘイは「うまい!」とうなっているが、日本では適当な居酒屋でもキンキンに冷えたビールが出てくる。

 ドイツ人でもない俺に、このぬるさをありがたがる文化はない。


「エールって、こんなぬるいの?

 冷たいエールはない?」


 不満がそのまま口に出てしまったが、コウヘイは不思議そうな顔で答えた。


「冷やせる飲み物飲めるのは貴族だけだろ。

 川で冷やすならともかく、店で出てくるもんは基本ぬるいぞ」


 ……絶望。


 だが、その瞬間、ふと思った。


 雷が出せた。

 なら、氷も――いけるんじゃないか?


 俺はジョッキを見つめ、ほどよい大きさの氷が中に浮かんでいるイメージをする。

 そして、小さく口に出した。


「……氷」


 次の瞬間。


 ちゃぷん、と音を立てて、エールの中に透明な氷が現れた。


「……お」


 ジョッキを持つと、はっきりと冷たさが伝わってくる。

 俺はそのまま、一気に喉へ流し込んだ。


「ぷはーっ……!」


 冷たい。

 うまい。

 土木仕事で溜まった疲れが、一気に抜けていく感覚。


 すると、コウヘイが目を丸くして俺を見ていた。


「お前、魔法使えるのか?

 それなんだよ。俺にもやってくれよ」


 ――やってくれ?


 一瞬、別の意味が頭をよぎったが、すぐに現実に戻る。

 この流れでそれはない。


「ああ、これな」


 俺はコウヘイのエールにも、同じように氷を入れてやった。


 コウヘイが一口飲み、目を見開く。


「……うまっ!

 なんだこれ、反則だろ!」


 そして、ぐっと身を乗り出して言う。


「今度から一緒に飲む時は、絶対これ入れてくれ!」


「おう」


 軽く返事をしながら、俺は内心で考えていた。

 ……何を入れていいんだ?


 そんなことを考えていると、横から声がした。


「やはり!」


 きらきらした声。

 嫌な予感がして、顔を向ける。


 そこにいたのは――

 土木工事の現場で、しつこく勧誘してきた、あの綺麗な女だった。


 目を輝かせ、こちらを見つめている。


 ……ああ。

 やっぱり、見られてたか。


 俺は、冷えたエールを一口飲みながら、静かに思った。


 ――日常に戻るの、もう無理かもしれないな。

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