招くという選択、開かれる家
土木工事の休憩時間。
汗をぬぐいながら腰を下ろしていると、いつの間にかコウヘイが隣に来ていた。
「なあ、たける」
「ん?」
「いつになったら家に呼んでくれるんだ?」
唐突な直球に、思わず視線を逸らす。
「この前からずっと言ってるよな? 呼べない理由でもあんのか?」
笑ってはいるが、冗談半分というよりは本気だ。
ここ最近、のらりくらりとかわしてきたが、さすがに限界か。
「……同居人に聞いてから決めるよ」
「同居人?」
コウヘイが目を細める。
「へえ。ちゃんと許可制なんだな」
「まあな」
それ以上は踏み込まれなかったが、肩を叩かれる。
「早めにな! 待たせすぎると拗ねるぞ」
そう言い残して、コウヘイは作業場へ戻っていった。
……拗ねるのはお前だろ。
そんな事を思いながらも、頭の中では夕方の相談内容が決まっていた。
仕事を終え、家へ戻る。
いつもの三人での夕食の準備が始まる。
「それでね」
食事を並べながら、俺は昼間の出来事を話した。
「また、家に呼べって言われた」
ゆなが箸を止める。
「コウヘイさんですよね?」
「そう」
「私は大丈夫ですよ?」
即答だった。
「問題は……」
視線をしずかへ向ける。
「どうかな?」
少し考える素振りを見せたあと、しずかは静かに言った。
「……呼んでもいいと思う」
予想外の答えに、思わず聞き返す。
「人に会うの、嫌だったんじゃ?」
「嫌ではあるけど……」
しずかは少し間を置き、こちらを見つめた。
「王女も来た。ゆなの友達も来た」
「これから先、誰かが訪ねてくるのは当然になると思う」
「この家に誰も呼ばない、という選択はできない」
淡々とした口調だが、しっかりと考えた言葉だった。
「だから、たけるが友達を呼ぶのは問題ない」
「あー……」
納得せざるを得なかった。
すでに、しずかの存在を知っている人間は少なくない。
しかも相手は王女だ。
もう完全に隠し切れる状況じゃない。
「……わかった」
そう答えると、しずかは小さく頷いた。
翌日。
仕事場でコウヘイに声をかける。
「次の休み、来るか?」
「行く!」
一瞬の間もなく即答。
「じゃあ、昼くらいで」
「了解!」
そのやり取りに、横から割り込む声。
「なんの話をしてるんだ?」
ルナだった。
答えたくない沈黙。
だが、それを破ったのはコウヘイだった。
「今度たけるの家に遊びに行くんだ! ルナも来るか?」
「行く!」
満面の笑み。
……俺の了承は?
嫌な予感しかしなかったが、断る理由もない。
「……いいよ」
渋々の了承だった。
ルナは明らかに“新しい情報”と“金の匂い”を感じ取った顔をしていた。
家に戻ると、しずかはいつもの場所に座っていた。
「ただいま」
「……おかえり」
コウヘイとルナが来る事を伝えると、
「そう」
と短く返ってくる。
だが、少し考えたあと続けた。
「二人来るなら、椅子が足りないと思う」
「食器も足りない」
「用意した方がいい」
「あっ!」
完全に盲点だった。
「何が必要かな?」
聞くと、しずかは次々と挙げていく。
椅子、皿、コップ、寝具、予備の布団――。
「……結構あるな」
不便なく暮らしていた分、来客を想定していなかった。
そこへ、ゆなが帰ってくる。
「なんの話してるんですか?」
泊まりに来る事と、買い出しが必要な事を説明すると、
「買い物ですか!? 私も行きたいです!」
目を輝かせる。
二人の予定を合わせると、二日後がちょうど良かった。
「じゃあ、その日に行こう」
「はい!」
荷物どうする? 運ぶ方法は?
そんな話をしていると、視線を感じた。
しずかだった。
「どうした?」
「……楽しそうだなって思って」
「まあな」
正直に答える。
「しずかも一緒に行けたらいいんだけどな」
「外に出られないのは、仕方ないと思ってる」
「気にしなくていい」
そう言いながらも、どこか名残惜しそうだ。
「じゃあさ」
俺は思いついた事を口にする。
「コウヘイ達が来た時、家の中をみんなで探索しよう」
「探索?」
「部屋は見たかもしれないけど、屋根裏とかはどうだ?」
「人が多ければ見れる場所も増えるだろ?」
「意外な所に手がかりがあるかもしれないし」
「……こんな所に? ってのも、ありそうじゃん」
しずかは一瞬考え、
「……うん」
と小さく頷いた。
その表情は、ほんの少し――
本当に、ほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。
家に人を招くという事。
それは、閉じていた世界が少しずつ開いていくという事でもあった。
そしてそれは、きっと――
この家に残された“何か”へと近づく一歩になるのだろう。




