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王女の暴走、姉という名の地雷

重く沈んでいた沈黙を、

 勢いよくぶち破ったのは――やはり、アスタナだった。


「そのことはですね!

 お父様とお母様に、なんとかしてもらいましょう!!」


 ぱん、と手を叩き、顔を上げる。


「それよりです!

 しずかさん!!」


 ずい、と身を乗り出し、

 先ほどまでの深刻な空気を一切感じさせない声で続けた。


「しずかさんは、すごく色々なことをご存じだって分かりました!

 ですから――私の相談に乗ってください!!」


 あまりの切り替えの早さに、

 場の空気は一瞬で霧散する。


 しずかは反射的に、その勢いに押されてしまい、


「……うん」


 と、小さく頷いてしまった。


 その瞬間、アスタナの表情が一気に輝く。


「ありがとうございます!!」


 そして、間髪入れずに核心を突いた。


「実はですね!

 私は――たけるさんと結ばれる運命だと思っているんです!!」


 びし、と指を立てる。


「ですが!

 年齢的に、婚約の話が上がってきていまして……!」


「どうすればいいのか、本当に悩んでいるんです!

 何か、打開策はありませんか!?」


 あまりにも別次元の熱量。


 先ほど“世界の危機”について語っていたとは思えない展開に、

 ガラテアとクレアは、そろって微妙に冷めた視線を向けた。


 だが、しずかは真面目だった。


 少し考え、

 淡々と、現実的な答えを返す。


「……既成事実を作る」


 アスタナがぱちっと瞬きをする。


「国の外に出る」


「あるいは、

 国にとって明確な損害を与える行動を取る」


「そうすれば、

 婚約は先延ばしになる可能性が高い」


 あまりにも冷静で、あまりにも容赦がない。


 王女という存在が、

 “外交の道具”であるという現実を、

 はっきりと突きつける言葉だった。


 アスタナは数秒沈黙し――

 次の瞬間、目を見開いた。


「では!!」


 ずい、と前に出る。


「たけるさんとの子を、

 はらめばいいのですね!?」


 その瞳は、

 どこか――危ういほどに真剣だった。


 しずかは一瞬だけ考え、

 そして投げやり気味に、


「……うん」


 と肯定した。


「な、なんで肯定するのですか!?」

 とクレアが声を上げる前に、

 ガラテアが深いため息をついた。


「……はぁ。

 馬鹿馬鹿しいですわ」


 冷ややかな視線で、妹を見る。


「少しは現実をご覧なさい、アスタナ」


「たけるは、

 もはや個人の問題ではありません」


「世界にとって“必要な存在”です」


「そのような軽率な行為が、

 認められると思いますか?」


 ぴしりと断じる。


「先にお母様が動かれて、

 すべて終わりですわ」


「……っ!」


 アスタナは悔しそうに唇を噛んだ。


「……そうですね」


 王妃ユリアナの影が、

 はっきりと脳裏をよぎったのだろう。


 しずかは、その様子を見て思う。


(……王妃は、

 確かに、手強い)


 だが、アスタナは諦めていなかった。


「でも!!

 今なら、まだ間に合います!!」


「今夜、

 たけるさんの子を――」


 そこへ、冷静な声が割り込む。


「私がこの場におりますので」


 クレアだった。


「そのような行為は、

 不可能でございます」


「時間になりましたら、

 城へお連れ帰りいたしますので」


 現実を突きつけられ、

 アスタナはがくりと肩を落とした。


「……うぅ」


 その様子を見ていたガラテアが、

 ふと話題を変える。


「ところで――」


 赤い瞳を、しずかに向ける。


「少々、無礼を承知でお伺いしますが」


「しずかさんは、

 本来、いくつでいらしたのですか?」


 唐突な質問に、

 視線が一斉に集まる。


 しずかは簡潔に答えた。


「……死んだ時は、二十歳」


 その言葉に、

 ガラテアは一瞬、考え込み――


「……そうですか」


 そして、静かに続ける。


「もし、差し支えなければ」


「お姉さまと、

 お呼びしてもよろしいでしょうか?」


 ――空気が、凍った。


「ガラテア様!?」

 クレアが素っ頓狂な声を上げる。


「それは、どういうおつもりで!?」


「姉が必要であれば、

 私が代わりに――」


「お姉さま!?」

 今度はアスタナが声を上げる。


「たけるさんに近づくために、

 外堀を埋めるのはやめてください!!」


 意味不明な非難が飛び交う中、

 しずかは首を傾げた。


「……なんで?」


 素朴な疑問。


 ガラテアは一瞬言葉に詰まり、

 そして、珍しく歯切れ悪く答えた。


「その……」


「わたくしは、

 姉が欲しかったのです」


「だから……

 嫌でなければ、

 そう呼ばせていただければ、と」


 その言葉に、

 クレアとアスタナは目を見開く。


 ――ガラテアが、

 こんな感情を口にするなど、

 これまで一度もなかった。


 だが。


「呼びたければ、別にいい」


 しずかは、あっさり肯定した。


 その瞬間――


「……!」


 ガラテアの表情が、

 ぱっと花開いたように明るくなる。


 そのタイミングで、


「ただいまー」


 間の抜けた声が、

 玄関から響いた。


 たけるの帰宅だった。


 ――嵐の予感を、

 何も知らずに。

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