使いを頼まれただけなのに、森が静かになった
いつものように、俺は土木工事の現場で身体を動かしていた。
特別なことは何もない。土を運び、木材を運ぶ。ただそれだけだ。
そんな中、現場の長が俺に声をかけてきた。
「ちょいと使いを頼まれてくれねーか?」
近くまで来て、低い声で続ける。
「こんな危険な状態でも、森の採取にためらいなく行くお前だ。
難しいことはねぇだろ」
――危険な状態ってなんだよ。
情報共有しろよ、と内心ツッコミを入れたが、長の顔を見て言葉を飲み込んだ。
強面で、体格もよく、正直――
大人の関係になってもいいと思えるくらいには好みだ。
「……わかりました」
反射的に、そう返事をしていた。
内容は、森に入って特定の樹木と、その周辺の土を採取してくるというものだった。
必要な道具と麻袋を渡され、俺は一人で森へ向かう。
道中、見慣れない動物が何度か襲ってきたが、以前使えるようになった雷を軽く放つと、すぐに逃げるか倒れるかした。
――雷を本気で出すと死ぬ。
なんとなく、加減できるようになっている自分がいた。
森の奥へ進み、説明された条件を思い出しながら辺りを見回す。
「……たぶん、これだよな?」
正直、説明はかなりアバウトだった。
だが、雰囲気で分かる。
それっぽい樹木と、根元の土を採取し、麻袋に詰める。
目的達成。
そう思い、森を出ようとした、その時だった。
地面が、揺れた。
これまで襲ってきた動物とは明らかに違う。
大きく、重く、殺気がある。
振り返ると、巨大な獣がこちらを睨んでいた。
「……ああ、はいはい」
正直、驚きよりも、面倒くささが勝った。
今まで通り、雷を出せばいい。
そう思い、手をかざす。
雷が落ち、獣は悲鳴を上げ、そのまま動かなくなった。
「……雷、便利だな」
それだけ呟き、俺は森を後にした。
採取したものを長の元へ届けると、彼は満足そうに頷いた。
「よくやったな」
ねぎらいの言葉と共に、いつもより少し多めの金貨を渡される。
――今日は、いい日だった。
その夜。
ハローワーク的な場所では、ちょっとした騒ぎになっていた。
「危険指定されていた魔物が、死んでいるだと!?」
職員たちが慌ただしく動き回り、奥では責任者らしき人物が声を荒げている。
「誰が倒した!?
討伐の記録は出ていないぞ!
倒した者を探せ!」
誰がやったのか分からない。
だが、確実に“何か”が起きた。
その頃、俺はというと――
いつもの宿で、いつものように身体を拭き、ベッドに横になっていた。
「……明日も仕事だな」
そんなことを考えながら、何事もなかったように眠りについた。




