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静かな家、騒がしい王城

家に戻り、俺はしずかに向き合って腰を下ろした。

 森での実験のこと、雷を纏って動けたこと、そして――

 どうしても引っかかっている疑問。


「なあ、しずか」


 声を落として問いかける。


「しずかは、治癒の魔法で人助けをしてたんだよな?」


「……うん」


「魔法ってさ、使える限度とか……なかったのか?」


 しずかは少し考えるように視線を伏せ、やがて静かに首を横に振った。


「……ないと思う。

 ずっと使ってたけど、疲れることも、使えなくなることもなかった」


「そう、なのか……」


 その答えに、俺は拍子抜けするような、

 妙に腑に落ちるような感覚を覚えた。


 魔法というのは、

 どこかで必ず“制限”があるものだと思い込んでいた。


 けれど――

 この世界では、

 少なくとも俺としずかにとっては、

 それが“当たり前”ではないらしい。


「……まあ、魔法ってそもそも創作の産物だしな」


 現実には、

 制限なんてものが存在しない世界があってもおかしくない。


 そう納得しかけた、その時点では――

 俺はまだ知らなかった。


 魔法に限度がある者と、

 限度が存在しない者がいるという事実を。


 それを知るのは、

 もう少し先の未来だ。


 一方その頃。


 王城の奥、

 外部の者が決して立ち入れぬ一室にて、

 王族が静かに集っていた。


 王カエサルは重々しい声で、

 たけると、しずかに関する情報を簡潔に、

 そして他言無用を前提として説明する。


 反応は、三者三様だった。


 沈黙。

 困惑。

 そして――

 明確な感情の揺れ。


 まず、アスタナ。


 説明が終わった瞬間、

 彼女の顔から血の気が引き、

 次の瞬間、怒りがはっきりと浮かび上がった。


「……二人の女性と、同居?」


 声は低く、しかし確かに震えていた。


「平民の少女と……

 死してなお留まる女性と……?」


 その場では言葉を抑えたが、

 内心の憤怒は抑えきれていなかった。


 アスタナの自室。


 扉が閉じられた途端、

 彼女はぽつりと呟いた。


「……許せません」


 傍らに控える侍女が、

 少し面倒そうに視線を向ける。


「私の、たけるさんが……

 平民の女の子と、

 死んだ女性と一緒に暮らし、

 寝食を共にしているなど……」


 静かな怒りが、

 言葉の端々に滲んでいた。


「そんな不埒な生活、

 認められるはずがありません」


 侍女はため息混じりに呟く。


「……死んだ女性の方には、

 特に何も思われないのですね」


「……!」


 アスタナは言葉に詰まり、

 視線を逸らした。


 同じ頃。


 ガラテアの自室でも、

 まったく別の温度の怒りが渦巻いていた。


「あのような恥辱を……

 わたくしに与えておきながら」


 冷たい声。


「その裏で、

 別の女性を惑わせているなど……

 不誠実にも程がありますわ」


 侍女クレアは、

 その様子を興味深そうに見つめていた。


「わたくしに、

 あのようなものを見せた以上……

 責任を取るのが常識ではなくて?」


 ガラテアの怒りは、

 理屈というより感情に近い。


 クレアは一歩前に出て、

 にこやかに、しかし妙に含みのある声で告げた。


「不誠実とお感じになるのであれば……

 ガラテア様も、

 同じように“不誠実”になさるのはいかがでしょう?」


「……何を言っておりますの?」


「アスタナ様の名誉のため、

 という名目であれば……

 わたくしは、

 ガラテア様との“不埒な行為”も

 喜んでお受けいたしますが?」


 その言葉に、

 ガラテアは眉をひそめた。


「……女性同士での、

 いかがわしい事、とは何ですの?」


「まあ……

 ご存じないのですね」


 クレアの目が、

 わずかに熱を帯びる。


「でしたら……

 いずれ、

 お教え申し上げる必要がありそうです」


「……ふざけるのも大概になさい」


 冷たい声とは裏腹に、

 室内には妙な緊張が漂っていた。


 一方で――

 そのすべてを知らぬまま。


 たけるの家では、

 いつもと変わらぬ静かな時間が流れていた。


 世界の中心から少し外れたその場所で、

 確かに、

 新たな波紋が生まれつつあることを、

 まだ誰も理解していなかった。

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