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聖女なき世界、王女の居場所

◆王城・謁見の間


 アルバトスは王城へ戻ると、

 私室にて王カエサルと王妃ユリアナの前に進み、静かに膝をついた。


「ご報告申し上げます、陛下、王妃殿下」


「先ほど、平民街にて確認した内容を、

 一切の虚偽なくお伝え致します」


 王は重々しく頷き、先を促す。


 アルバトスは、

 しずかがサーデンス王国第三王女であったこと、

 治癒の魔法を行使できたこと、

 そして“死者として存在している”という事実まで、

 一つ一つ丁寧に語った。


 話を聞き終えたカエサルは、深く椅子に身を沈めた。


「……はぁ」


「我が国の貴族が、他国の王女を殺害していたなど……

 下手をすれば、戦争の火種となりかねぬではないか」


 低く、しかし確かな怒気が滲む。


 アルバトスは一歩も引かず、冷静に答える。


「既に死者であられますゆえ、

 直接的な外交問題に発展する可能性は低いかと存じます」


「しかし――

 サーデンス王国第三王女の遺体の所在が不明である点は、

 看過すべきではありません」


「国として、非常に憂慮すべき事態かと」


「……ギルバート子爵か」


 カエサルは苦々しく呟いた。


「子爵はすでに死亡しておる。

 遺体の所在を知る者も、

 もはやこの世にはおらん」


「全く……

 死んだ後まで厄介な男よ」


 王妃ユリアナが、静かに問いを重ねる。


「子爵に仕えていた侍女や従者はおりませんの?」


「子爵の死後、

 側近の多くは国外へ流れたと聞いておる」


「我が国の者でない者も多く、

 今となっては追跡も困難であろうな」


 カエサルは深く息を吐き、

 机に手をついた。


 その空気を変えるように、アルバトスが一歩前に出る。


「その件につきましては、

 私が各国に持つ伝手を用い、

 可能な限り調査致しましょう」


「……それよりも、

 より深刻な懸念がございます」


 王と王妃は、同時に視線を向ける。


「もし――

 サーデンス王国第三王女が、

 聖女であった場合」


 その言葉に、

 室内の空気が凍りついた。


「……どういう意味だ」


 カエサルの声は低い。


「治癒の魔法を使える者の中に、

 数世代に一人、

 比類なき力を持つ聖女が必ず現れる」


「その聖女が存在する間、

 国は安寧を保ち、

 魔物は沈静化し、

 世界は均衡を保つ――」


「これは、

 ある国に伝わる口伝でございます」


 ユリアナが息を呑む。


「……では、今各国で頻発している狂暴な魔物の出現は」


「聖女を失った反動、

 あるいは均衡が崩れた結果……

 そう考える事も、できなくはありません」


「口伝が事実かは断言できませぬ。

 しかし――」


「数百年、

 このような規模で魔物が溢れた例は、

 どの国にも記録がないのです」


 沈黙。


 王は、ゆっくりと目を閉じた。


「……偶然であってほしいものだな」


 だが、その声には

 祈りに近い重さがあった。


◆たけるの家


 アルバトスが去った後、

 家の中には静かな沈黙が流れていた。


 ゆなは、何と言葉を紡げばいいのか分からず、

 膝の上で指を絡めている。


 しずかもまた、

 視線を落としたまま、

 何も語らない。


 そんな空気を、

 たけるがあっさりと破った。


「……しずかって、王女だったんだな」


 拍子抜けするほど、

 淡々とした一言。


「……うん」


 しずかは小さく頷く。


「言えば、

 この生活も変わってしまうと思って……

 言えなかった」


 この場所、この日常が、

 彼女にとっても大切だったのだろう。


 だが、たけるは肩をすくめる。


「別にさ」


「王女だろうが、

 魔女だろうが、

 今ここにいるのは“しずか”だろ?」


「それ以上でも、

 それ以下でもないと思ってる」


 しずかは、目を見開いた。


「……そう」


 短い返事だったが、

 その表情は、

 はっきりと安堵に染まっていた。


 その空気を、

 ゆなが勢いよく壊す。


「ちょっと待って下さい!!」


「二人して、

 そんな落ち着いた空気出さないで下さい!」


「私もいるんですよ!

 仲間外れみたいじゃないですか!!」


 涙目で訴えるその姿に、

 思わずたけるは吹き出した。


「……ああ、悪い悪い」


 小さな家の中で、

 世界の均衡や王女の過去とは無関係に、

 笑い声が響いた。


 それはきっと――

 しずかにとって、

 何よりも救いになる音だった。

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