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宮廷特使アルバトス、静かなる違和感

王城・奥の謁見の間。

 重厚な空気の中、一人の男が片膝をついていた。


 茶色に近い金髪を後ろへ撫で付けた短髪。

 口元と顎に整えられた髭。

 背は高く、無駄のない体躯。

 長年、王の代理として各国を渡り歩いてきた男――

 宮廷特使アルバトス。


「外の情報です」


 落ち着いた低い声。


「各国で出現している魔物の種類、出現頻度、

 および発生原因として推測される事象をまとめてあります。

 後ほど、ご確認ください」


 書類を差し出しながら、頭を垂れる。


「ご苦労であった、アルバトス」


 王カエサルがねぎらう。


「よい旅でした」


 アルバトスはそう答え、わずかに口角を上げた。


「それは何よりだ」


 だが、アルバトスは一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せ、

 やがて静かに続けた。


「……一つ、気になることがありまして」


「ほう?」


「帰路の途中、

 大きな魔物を――魔法で倒す者を見かけました」


 空気が、わずかに張り詰める。


「ただし」


 アルバトスは首を振る。


「私がこれまで見てきた魔法とは、

 明らかに異なっていました。

 術式でも、詠唱でもない……

 力そのものが、別物です」


 視線が、王と王妃に向く。


「私の留守中に、

 グリシア王国は新たな戦力を得たのでしょうか?」


 短い沈黙の後、

 カエサルが答えた。


「……一人、いる」


「名は?」


「たける。

 平民だ」


 アルバトスの眉が、わずかに動いた。


「平民、ですか」


「魔法を使える」


 その一言で、

 アルバトスははっきりと目を見開いた。


「……なるほど」


 そして、当然の疑問を口にする。


「それで、その男は

 現在、どこに所属しているのですか?」


「――土木工事をしておる」


 一瞬、時が止まった。


「……はい?」


 思わず、素が出る。


「失礼ですが陛下、

 それは……どういうお考えで?」


 本気で理解できない、という顔だった。


 そこへ、ユリアナが穏やかに口を挟む。


「事情があるのですよ」


 そして、

 たけるが望んだ“普通の生活”の話を、

 そのまま伝えた。


 話を聞き終え、

 アルバトスは深く息を吐く。


「……お二人のお考えは、立派だと思います」


 否定はしない。

 だが。


「しかし、現在の状況を鑑みれば、

 彼を土木工事に留めておくなど……

 現実的ではありません」


 困ったように、二人を見やる。


「理解はしている」


 カエサルが答える、その時。


「失礼いたします!」


 扉がノックされ、兵士が入ってくる。


「治癒の魔法を使える者が確認されたとの報告です。

 男か女かは不明ですが、

 平民街で使用された可能性が高いとのこと」


 その瞬間、

 ユリアナが楽しそうに微笑んだ。


「……彼でしょうね」


「本当に、退屈させない子」


 王は苦い顔をし、

 アルバトスは興味深そうに目を細める。


「通せ」


 こうして――

 たけるは再び、王族の前へ立つことになった。


 挨拶を終えた後、

 カエサルが尋ねる。


「治癒の魔法も使えたのか?」


 答えようとしたが、

 周囲には兵士も、馬車の主もいる。


 言葉を飲み込んだ、その時。


「こちらで先に事情を聞くわ」


 ユリアナの声が響く。


「アルバトスだけ残して、

 他は下がりなさい」


 命令と共に、人が去り、

 その場には四人だけが残った。


「正直に話してちょうだい」


 ユリアナが柔らかく言う。


「どんな事情でも、

 害がないと判断できれば、お咎めはないわ」


 カエサルも、静かに頷く。


 ――覚悟を決め、

 たけるは語った。


 しずかとの出会い。

 家から出られない幽霊であること。

 治癒の光が、彼女の手から溢れたこと。


 荒唐無稽。

 信じる方が難しい話。


 だが。


「……なるほど」


 アルバトスが、静かに笑った。


「信じられない話ですが、

 だからこそ真実味がある」


「ええ。

 本当に不思議な縁ね」


 ユリアナも楽しそうだ。


 カエサルは顎に手を当て、考え込む。


「……話は分かった。

 だが、自身の目で見ねば判断できぬ」


「連れてくることは可能か?」


「家から出られないようで……

 難しいと思います」


「そうか」


 そして――


「では、私が直接見に行こう」


「私が行きます!」


 ユリアナが即座に被せる。


「そんな面白いこと、見逃せません!」


「いや、私が――」


「いやいや、私が――」


 砕けた言い合い。


 そこへ、

 アルバトスが呆れたように割り込んだ。


「……お二人が行けるわけないでしょう」


 正論だった。


「私が参ります。

 宮廷特使として、

 そして一人の観測者として」


 王と王妃は顔を見合わせ――


「……頼む」


 こうして。


 アルバトスは、

 “土木工事をする魔法使い”の家を訪ねることになった。


 静かに、しかし確実に。

 国の視線が、

 その小さな家へ向けられ始めていた。

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