癒えぬ血と、静かに灯るもの
いつも通りの朝――
けれど、いつもより少しだけ賑やかな朝だった。
「おはようございます!!」
ニーナの声が、家中に響く。
朝から全力。テンションは一切落ちていないらしい。
「朝から元気だね……」
「元気が取り柄ですから!」
胸を張るニーナに、ゆなが苦笑する。
しずかはというと、
昨日“見られた”ことを多少は気にしている様子だったが、
ニーナを嫌っているような雰囲気はなかった。
四人で朝食を囲み、
俺は少し早めに席を立つ。
「気をつけて行くんだぞ」
「はい! 行ってきます!」
今日は半ドン。昼までの仕事だ。
土木工事の現場で、できるだけ作業を詰めて終わらせる。
帰り道、顔見知りの護衛が馬で巡回しているのを見かけた。
「どうもー」
「おう」
軽く挨拶を交わすつもりだったが、
どうやら巡回ルートが俺の家の方角らしい。
馬の横を歩きながら、他愛ない話をしていると――
「……ん?」
前方から、全力疾走してくる人影。
「た、たけるさん!!」
ニーナだった。
息を切らし、顔は青ざめている。
「魔物に……!
ゆなが……ゆなが襲われました!!」
頭が一瞬、真っ白になる。
「ゆなは!?」
「隠れられる場所には行けました!大きな岩の!
でも、怪我を……!」
護衛が即座に反応した。
「あそこか!」
馬を返し、俺を見る。
「すまん。
一人では厳しい。来てくれ!」
「もちろんだ!」
俺は一つ返事で、馬の後ろにまたがった。
思ったよりも早く現場に着く。
「あそこだ!」
護衛の声に、視線を向ける。
巨大な魔物が一体――
切り出されたような大岩に向かって、
何度も腕を振り下ろしている。
岩陰に、ゆながいる。
距離が詰まった瞬間、
俺は迷わず手を伸ばした。
――閃光。
稲妻が一直線に走り、
魔物を貫く。
巨体が崩れ落ち、動かなくなった。
馬から飛び降り、駆け寄る。
「ゆな!!」
「……たける、さん……」
足元が血で赤く染まっている。
「大丈夫か!?」
「痛いですけど……意識は、あります……」
即座にタオルで足を縛り、止血する。
護衛は応援を呼ぶため、馬を出そうとしたが――
街へ向かう馬車が、ちょうど近づいてきた。
事情を説明し、
俺とゆなはその馬車に乗せてもらう。
家に着くと、
ニーナがドアの前で待っていた。
「ゆな!!」
ゆなを抱き下ろし、すぐ家の中へ。
御者と、乗せてくれた四十代ほどの貴族らしき男に頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました!」
返事をする前に、馬車は静かに去っていった。
すぐに部屋へ戻る。
「医者……!?
いや、傷薬……!」
焦りで頭が回らない。
「私、持ってきます!!」
ニーナがそう叫び、外へ飛び出していった。
その瞬間――
部屋の中で、しずかが静かに動いた。
ゆなの足に巻かれていたタオルを外し、
そっと、手をかざす。
淡く、柔らかな光が――
しずかの掌から、滲むように溢れ出していた。
俺は、その光を、息を呟むように見つめていた。
――これは。
間違いなく、
“癒やす力”だった。
しずかの横顔は、いつもと変わらない。
けれどその姿は、
静かに、確かに――
何かが始まったことを告げていた。




