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筋トレだと思えば、土木仕事も悪くない

雨はすっかり上がり、空はいつも通りの色に戻っていた。

 俺は特に考えることもなく、また土木工事の現場へ向かう。


 休みなく働いてはいるが、現代と違ってこの世界の仕事はどこか適当だ。

 作業時間も長くはなく、無理をさせられることもない。

 思った以上に疲労も少なく、ストレスもない。


「……筋トレしながら金もらってると思えば、悪くないな」


 最近はそんなふうに考えるようになっていた。


 現場に着き、いつものように長に挨拶をして仕事を始める。

 黙々と身体を動かしていると、視界の端に見覚えのある姿が映った。


 仕事二日目に声をかけてきた、あの頭のおかしな美女だ。


「やはり魔法が使えるのだな!」


 鼻息荒く、距離を詰めてくる。


「一緒にこんな仕事ではなく、大金を稼がないか!?

 ある魔物を倒せば、ここで働くより相当な金銭を得られるぞ!」


 どこで俺が魔法を使えると知ったのか。

 というか、知っている前提で話が進んでいるのが怖い。


 宗教の勧誘より質が悪そうだ。

 金の匂いがする話は、だいたいトラブルの元になる。


「興味ない」


 短くそう返し、俺は前と同じように作業場所を変えた。

 美女の不満そうな声が聞こえた気がしたが、無視する。


 仕事を終え、いつもの宿へ戻る。

 日課のように身体を拭き、食事処で椅子に腰を下ろすと、宿屋の娘が声をかけてきた。


「今日もお疲れ様です。

 たまには休むことも大事ですよ?」


 その言葉を聞いて、思わず肩の力が抜けた。

 宗教だの王女だの、頭の悪そうな女たちを見た後だと、この娘が異様なほどまともに見える。


「ありがとう」


 そう告げると、彼女は一瞬だけ言葉に詰まり、それから静かに話し始めた。


「最近、この辺りで見慣れない魔物が出るそうなんです。

 そのせいで、宿に泊まるお客さんも減ってしまって……ちょっと大変で」


 なぜ土木仕事をしている俺にそんな話をするのかは分からない。

 だが、この宿は居心地がいい。

 もし閉店なんてことになったら、住む場所を失うことになる。


 俺は少し考えてから口を開いた。


「その魔物がいなくなれば、客は戻るのか?

 依頼は出してる?」


 ハローワークみたいな場所で、仕事として依頼を出す仕組みは知っている。

 だが、危険な仕事は基本的に放置されがちだ。


「一応、依頼は出しているんですけど……

 危険な仕事は引き受けてくれる人がいなくて」


 がっかりした表情を浮かべる宿屋の娘に、少しだけ同情する。

 だが、俺にできることはない。


「そのうち、誰かが片付けてくれるよ」


 適当なことを言って、俺は食事を済ませた。

 部屋に戻り、ベッドに横になる。


 ――今日も特に何も起きなかった。


 そう思いながら、俺は静かに眠りについた。

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