幽霊と友達と、見えてはいけないもの
しずかと並んで、なんとも言えない穏やかな時間を過ごしていた。
湯を沸かし、交代で風呂に入り、
そのあと二人で夕食を作る。
包丁を持つしずかの動きは相変わらず丁寧で、
幽霊だという事実を忘れそうになる。
そんな時だった。
「ただいまです!」
元気な声とともに、ゆなが帰ってきた。
「たけるさん! たけるさん!」
靴も脱ぎきらない勢いでこちらへ来たかと思えば、
今度は両手をばたばたさせながら言う。
「今度、友達がこの家に来ることになったんですけど!
どうしましょう!?」
「どうしましょうって……」
俺は首を傾げる。
「別にいいんじゃない?
俺が邪魔なら、その時間はどこか出てるし」
「それはいいんです!」
即答だった。
「……しずかさんは、どうしましょう!?」
ああ、そっちか。
そういえば、
俺もしずかの扱いについてちゃんと考えないまま、
コウヘイを家に呼ぶ話も流れていたことを思い出す。
「あっ……」
思わず手を叩く。
「とりあえず、風呂入ってから話そう」
「はい!」
そんな流れで、いつもの日常に戻った。
夕食の時間。
所定の椅子に座り、三人で食卓を囲む。
自然と話題は、しずかのことになった。
「たけるさんがいない時なら」
ゆなが言う。
「しずかさん、ネックレス外してれば見えないですよね?」
「うん」
しずかが静かに頷く。
「その時なら、ゆなの友達が来ても問題ないと思う」
それで一つ、結論は出た。
だが次の問題がすぐに浮かぶ。
「じゃあさ」
俺は箸を置いて聞いた。
「俺がいる時に、誰かを呼ぶ場合はどうする?」
しずかを見る。
「誰かに見られること、抵抗ある?」
「……ある」
即答だった。
意外で、少し驚く。
「どうして?」
しずかは少し考え、ぽつりと言った。
「普通に……
死んだ人間がいたら、誰でもびっくりすると思うから」
「……あ」
確かに。
最初から恐怖を感じなかった自分がおかしいのだ。
今は一緒に生活しているから忘れているが、
しずかは幽霊――本来なら、恐怖の対象だ。
だが、ふと思った。
「でもさ」
俺は言葉を選びながら続ける。
「ネックレスつけてれば、触れるし……
初めて見た人でも、幽霊だって分からないんじゃない?」
一瞬、沈黙。
そして。
しずかが、目を見開いた。
「……!」
「確かに!!」
今度は、ゆなが大きく頷く。
「私も、そんな風に考えたことなかったです!」
「……初めて会った人には、怖がられてたから」
しずかが静かに言う。
「そういう発想、なかった」
正直なところ、
しずかが普通に生活できていること自体が謎だ。
それを疑いもせず受け入れて、
三人で暮らしているこの状況も、
世間一般ではまずあり得ない。
(……不思議だよな)
そう思うと、
少しだけ笑ってしまった。
だが、しずかは続ける。
「もし……
誰かに見られて、私が誰なのか調べられたら困る」
「だから……
人に会うのは、できれば避けたい」
それを聞いて、
俺もゆなも、頷くしかなかった。
そこで、ふと気になったことが浮かぶ。
「……そういえばさ」
言っていいのか迷ったが、口にした。
「しずかって、この家で死んだんだよな?」
二人がこちらを見る。
「もしかして……
遺体が、この家のどこかにあったりする?」
聞きづらかった。
だが、もし遺体が残っていたら、
殺人として扱われる可能性もある。
それに、
無残な状態で放置されているのも、気が引けた。
しずかは、首を横に振る。
「この家には、ない」
「死んで……
こうして幽霊になった時には、
もう、この家はもぬけの殻だった」
「暇だったから、全部探したけど……
遺体は、なかった」
「そっか……」
一安心する。
だが同時に、
別の疑問が胸に残る。
(……じゃあ、どこに行ったんだ?)
できることなら、
遺体がどうなったのかだけでも調べたい。
そう思いながら、
俺は空になった皿を片付けた。
この家には、まだ――
見えていない何かが残っている気がした。




