剣を持つ者、視線を向ける者
「……これで、一旦話は終わりです」
ユリアナはそう告げ、穏やかな笑みを浮かべた。
「また話を聞くことがあると思います。その時も、今日のように正直に話してもらえると嬉しいわ」
その言葉に、ようやく肩の力が抜ける。
俺とウィルは軽く頭を下げ、部屋を後にしようとした――が。
「たける、少しだけ」
名を呼ばれ、足が止まる。
振り返ると、ユリアナが静かにこちらへ歩み寄ってきていた。
「あなたは、先に下がっていいわ」
ウィルにそう告げると、彼は一瞬だけ俺を睨むように見てから、護衛に促されて部屋を出ていった。
残されたのは、俺とユリアナだけ。
つかつかと距離を詰められ、気づけば彼女は目の前に立っている。
俺より少し低い視線。
――まずい。
直感的にそう感じ、俺は膝をつき、見上げる姿勢を取った。
その仕草を見て、ユリアナは一瞬だけ目を細める。
そして、そっと身を屈め、耳元で囁いた。
「……随分と立派な、大きな剣を持っているのね」
心臓が、跳ねる。
「あんな状況で、なお硬さを失わないなんて……」
くすり、と小さく笑う。
「あなたも、持って生まれた“才能”があるのかもしれないわね」
一瞬、息が詰まったが、俺は平静を装う。
「……そのようなことはありません」
そう答え、立ち上がって部屋を出ようとする。
背中に、視線が突き刺さる。
振り返らなくても分かる。
あれは――獲物を見定めた捕食者の目だ。
護衛に先導され、王城を出る通路を歩く。
隣を歩くウィルに、俺は声をかけた。
「……事情を知らなかったとはいえ、すまなかった」
少し間を置き、続ける。
「こんなに大きな騒ぎになるとは、思っていなかった」
(……なるに決まってたけどな)
それは、心の中にしまう。
しばらくの沈黙のあと、ウィルが口を開いた。
「結果として……」
淡々とした声。
「給金の高い職につけたことには、感謝しています」
だが、次の瞬間――
視線が、鋭く変わった。
「でも」
低く、強い声。
「僕のことを売った償いは、必ずしてもらう」
一歩、距離が詰まる。
「いつか必ず、あなたに――」
言葉を選ぶように、一拍置いて。
「僕の剣を、差し込んでやる」
その宣言に、思わず背筋が引き締まった。
「……覚えておいてください」
それだけ言い残し、ウィルは歩みを速めた。
王城を出て、俺とウィルは別々の道へ分かれる。
家への道を歩きながら、俺は考える。
(……やれやれ)
正直なところ、
自分がそういう対象として見られること自体は、珍しい話じゃない。
俺が男を好きだということも、
剣を差し込む側だったことも、否定はしない。
けれど――
そこに執着や憎しみが絡むのは、正直ごめんだ。
誰かと何かが起こる「かもしれない」
その手前の空気や会話が、俺は好きだった。
だからこそ、
ウィルの向けてきた感情は、少しだけ厄介だ。
(……どうしたもんかな)
そんなことを考えているうちに、家に着いた。
扉を開ける。
「……おかえり」
椅子に座ったしずかが、いつもと変わらない声で言う。
「ただいま」
短く返し、俺も椅子に腰を下ろす。
言葉は交わさない。
ただ、同じ空間で静かに過ごす時間。
それだけで、
張り詰めていた心が、ゆっくりとほどけていく。
(……今は、これでいい)
そう思いながら、
俺は何も考えず、しばらくぼんやりと座っていた。




