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知らなかっただけで、規格外だったらしい

訓練場に、張り詰めた空気が満ちる。


 合図役の魔法師団員が一歩前に出て、

 手を上げた。


「――準備、開始」


 だが、俺は一歩も動けなかった。


(……いや、待て)


 正直に言おう。


 魔法を「使った」ことはある。

 だが――


 魔法の授業を受けたことは、一度もない。


 防御魔法?

 どうやるんだ?


 そもそも、

 他人が魔法を使っているところを

 ちゃんと見たことすらない。


 知っている者と、

 何も知らない者。


 その差は、雲泥だ。


 俺は一歩前に出て、

 手を上げた。


「すみません」


 場の空気が、わずかにざわつく。


 ガラテアが、眉をひそめた。


「……何かしら」


 どうにも見た目が幼いせいか、

 言葉遣いが少し崩れてしまう。


「俺、魔法を使ったことはあるんですけど、

 全部“なんとなく”なんです」


「誰かが魔法を使ってるところを、

 ちゃんと見たこともない」


 周囲が静まり返る。


「防御って言われても、

 何をどうすれば防御なのか分からない」


 俺は正直に続けた。


「何か起きてから

 『できてない』って言われるのは納得できないので……」


「先に、

 どのくらいの攻撃をして、

 魔法防御がどういうものなのか、

 教えてもらえませんか?」


 一瞬、沈黙。


 魔法師団の面々が、

 信じられないものを見る目でこちらを見ている。


 ガラテアは、

 じっと俺を見つめたまま――


「…………」


 数秒、考え込んだ後。


「……そういうことなら、仕方ないわね」


 あっさり、そう言った。


(助かった……)


「攻撃兵を一人、前へ」


 命令一つで、

 魔法師団の一人が進み出る。


「あなたは、

 その攻撃を防御して防ぎなさい」


 理解してくれる。

 話せば分かる。


 王といい、この国の上層部は

 意外と理性的だ。


「……ありがとうございます」


 そう言うと、

 ガラテアはふん、と顔を背けた。


「勘違いしないで。

 検証のためよ」


 だが、その直後。


「ところで」


 ガラテアが振り返る。


「あなたは、どんな魔法が使えるの?」


「得意な属性を言いなさい」


 得意な魔法。


(……生活魔法ばっかなんだよな)


 風呂のお湯を溜めたり、

 火を出して温め直したり、

 水を出して飲んだり。


 どれも「得意」と言われると違う。


 だが――


(雷は、さすがに人に向けたらヤバそうだ)


 比較対象としては、

 ちょうどいいかもしれない。


「……雷、です」


 その瞬間。


「雷属性か」


 ざわ、と周囲が動いた。


 最初に呼ばれていた攻撃兵が下がり、

 別の魔法使いが前に出る。


 雷を扱う、専門の魔法使いらしい。


「最大出力で撃ちなさい」


 ガラテアの命令に、

 雷魔法使いが頷く。


 杖を構え、

 詠唱。


 次の瞬間――


 バリバリッ!!


 空気が裂ける音と共に、

 一直線の雷光が走った。


 レーザーのような、

 細く鋭い雷。


 防御役の魔法師団員が、

 杖を地面に叩きつける。


 目の前に現れたのは、

 長方形の“光の板”。


 雷が直撃し――


 パァンッ


 霧散。


 雷は消え、

 光の板も同時に消失した。


「おお……!」


 周囲から、

 感嘆の声が上がる。


 だが、俺は――


(……あれ?)


 背中に、冷たい汗が流れた。


(俺が出した雷、

 あれの……何倍だ?)


 線の太さが違う。

 音も違う。


 威力が、

 明らかに違う。


(下手したら、

 防御ごと消し飛ばしてたな……)


 聞いておいて、

 本当に良かった。


 心の底からそう思った。


「どう?」


 ガラテアが、

 どこか誇らしげに言う。


「魔法師団でも屈指の雷魔法使いよ」


「威力に驚いたでしょう?」


 ドヤ顔だ。


「平民の魔法など、

 簡単に受け止められるの」


「心配しなくていいわ」


 そして、

 はっきりと言い放つ。


「全力で、魔法を放ってみなさい」


(……全力?)


 全力なんて、

 出したことがない。


 というか――


(全力出したら、

 死なないか?)


 雷魔法使いが下がり、

 再び陣形が整えられる。


「先に、あなたが攻撃しなさい」


 宣告。


 俺の攻撃ターンが、

 始まってしまった。


(……どうする、俺)


 訓練場の中央で、

 俺は静かに息を整えた。


 ――やりすぎない。


 それだけを、

 必死に意識しながら。

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