第一王女の検証と、閉ざされた魔法陣
口と目を布で覆われ、
腕を縛られたまま、
俺は完全に“荷物”として運ばれていた。
床の感触が変わる。
石造りの、ひんやりとした空気。
「ここに座らせなさい」
若い――だが、はっきりとした命令口調の声。
「身体はそのまま。
目と口の布だけ外して」
指示が飛ぶと同時に、
布が解かれた。
急な光に、思わず目を細める。
しぱしぱと瞬きを繰り返し、
視界がはっきりしてきた、その先に――
少女が立っていた。
いや、少女に見えるが、
纏う空気は完全に“上”の人間だ。
豪奢に波打つ金髪。
カールのかかった長い髪が背中に流れ、
薄い緑の瞳が、冷ややかにこちらを見下ろしている。
顔立ちは整っていて、文句なしの美少女。
だが、身長は低い。
(……小さくね?)
そう思った瞬間――
「無礼者」
鋭い声が飛んだ。
冷たい視線が突き刺さる。
「心の中とはいえ、
第一王女を値踏みするとはいい度胸ね」
(……あ、これ、思考読まれてるやつだ)
俺は内心でため息をついた。
少女――いや、王女が口を開く。
「あなたが、
いくつもの魔法を使えるという平民ね」
じっと、俺の顔を観察するように見つめてくる。
「……あの凡庸な平民とは違って、
顔は悪くないようね」
凡庸な平民?
ウィルのことか、と察する。
それよりも、
この王女、距離感が近い。
圧が強い。
俺はできるだけ穏便に済ませようと口を開いた。
「それで……
俺をここに連れてきた目的は?」
すると王女は、鼻で小さく笑った。
「紋章が発現した少年は、
どうやら魔法が使えないようだけれど」
淡々と続ける。
「あなたは違う。
平民でありながら魔法を使えると聞いているわ」
腕を組み、
勝ち気な瞳で見下ろす。
「本来、魔法は貴族にしか発現しない。
その“例外”がどこまでできるのか――
確認してみたかったの」
(……それ、普通に呼び出して言えばよくない?)
そう思った瞬間。
「……妹のアスタナが、少々面倒でね」
ガラテアは、わずかに眉をひそめた。
「お父様やお母様を巻き込むと、
話がややこしくなる」
「だから、
あなたには“少し強引”に来てもらったの」
一瞬だけ、視線を逸らす。
「手荒な真似になったのは認めるわ。
……理解してちょうだい」
テンプレ貴族ムーブすぎて、
逆に感心してしまった。
「それで、
俺は何をすれば?」
そう聞くと、
ガラテアは満足そうに頷いた。
「魔法師団が使っている訓練場があるわ」
「そこで、
あなたの実力を見せなさい」
「……はい」
断る選択肢は、最初からなかった。
拘束を解かれ、
ガラテアと数名の護衛に挟まれる形で移動する。
辿り着いたのは、
ドーム状の巨大な空間だった。
床一面に描かれた、
複雑な魔法陣。
幾重にも重なり合う紋様が、
淡く光を帯びている。
思わず、じっと見てしまった。
「気になるか?」
横から声がする。
護衛の一人だった。
「あれは結界だ」
「結界の中であれば、
どれほど大きな魔法を使っても外に漏れない」
「魔法は貴族にしか発現しない。
平民に“魔法とは何か”を見せないための配慮だと思っていい」
(……配慮ねぇ)
説明ありがとう、とは思ったが、
同時に別の疑問が浮かぶ。
(俺の思考、
そんなに筒抜けなのか?)
そんな事を考えている間に、
ガラテアが一歩前へ出た。
「それでは始めるわ」
その声が、
空間に響く。
「これから、
こいつの魔法がどれだけ使えるかを検証する」
指先で俺を示す。
「防御魔法を使える者、二人」
「わたくしの前に立ちなさい」
すぐに、
二人の魔法師団員が前へ出る。
「攻撃と防御を、
攻守交代制で行う」
「全力で来なさい。
――死なない程度に」
ガラテアは後方へ下がり、
護衛の一人が俺を導く。
「……ここだ」
対面する形で、
二人の防御役と向かい合う。
逃げ場はない。
準備は、整ってしまった。
(……さて)
俺は、静かに息を吐いた。
(どこまで、
“普通”でいられるかな)




