王からの呼び出しと、同じ部屋の夜
こんこん、と控えめなノック。
嫌な予感を抱えたまま扉を開けると、そこに立っていたのは見慣れない男たちだった。
全員、姿勢が異様にいい。
鎧の意匠も、平民街ではまず見ないものだ。
「陛下の護衛である」
そう名乗り、男の一人が一歩前に出る。
「こちらの書状を確認していただきたい」
差し出された封書には、王城の紋章。
中身は簡潔だった。
――三日後、王城にて直接話をしたい。
――時間と場所は追って伝える。
「……わかりました」
それ以上、拒否する理由もない。
護衛たちはそれだけ告げると、深く一礼し去っていった。
扉を閉め、振り返ると――
ゆなとしずかが、揃ってこちらを見ていた。
「た、たけるさん……」
ゆなが不安そうに声を震わせる。
「何したんですか?
大丈夫なんですか?」
「いや、俺もよく分からない」
正直な感想だ。
「三日後に話をしたいってだけだった」
すると、しずかが静かに言った。
「その内容なら、話を聞くだけだと思う」
「……なんで分かるんだ?」
思わず聞き返す。
しずかは少し考えるように目を伏せ、
「殺意がない」
淡々と、そう言った。
妙に確信のある言い方だった。
「……そっか」
理由は分からないが、
なぜかその一言で納得してしまった。
その夜。
しずかと同じ部屋で寝る、最初の夜だった。
ゆなに「おやすみなさい」と声をかけ、
二つ並べたベットにそれぞれ横になる。
「……おやすみ」
「おやすみ」
それだけのやり取り。
だが、目を閉じてもなかなか眠れない。
(王と話す、か……)
王自体はまともそうだった。
問題は、あの妙に俺に執着しているアスタナだ。
(変な話にならなきゃいいけどな)
そんな事を考えていると――
背中に、柔らかい感触。
誰かが、俺のベットに入ってきた。
横向きだった俺は、振り返ろうとして――
その前に、声がした。
「……しずか」
静かな声。
「こうして、誰かと触れあえると思っていなかった」
背中に、顔をうずめる気配。
「ゆなとは違う触れ合い……
今日は、こうして寝たい」
淡々としているのに、
どこか必死な響きがあった。
「……わかった」
それだけ答える。
しずかの体温を感じながら、
俺はそのまま眠りに落ちた。
「たけるさん……たけるさん」
ゆなの声で、目が覚める。
驚くほど、深く眠っていた。
この世界に来てから、
こんなに熟睡したのは初めてかもしれない。
ぼんやりと意識を戻し――
そこで、状況に気づいた。
(……え?)
俺は、しずかを抱きしめるような形で眠っていた。
一瞬で目が覚める。
だが、腕の中のしずかは、
まるで生きている人間のように、すやすやと眠っている。
長い黒髪が頬にかかり、
穏やかな寝息。
(……なんだこれ)
妙に、愛らしい。
そう思った瞬間――
強烈な視線を感じた。
顔を上げると、そこには。
「……たけるさん」
怒っているような、
泣いているような、
複雑な表情のゆなが立っていた。
「ずるいです」
「え?」
「しずかさんにくっつこうとしたら、
私の時は避けられるのに……」
ぐっと拳を握りしめる。
「そんなに密着した事、ないのに!
ずるいです!」
嫉妬なのか、文句なのか、
感情がごちゃ混ぜだ。
俺は一瞬きょとんとし――
そして、思わず笑ってしまった。
「……平和だな」
「笑わないでください!」
むっとするゆな。
腕の中で、しずかが小さく身じろぎする。
王城からの呼び出し。
先の見えない不安。
それでも。
(……この日常、結構好きだな)
そう思いながら、
俺は新しい朝を迎えた。




