それぞれの居場所、そして扉の向こう
討伐報酬が思った以上に入ったおかげで、生活に少し余裕ができた。
しずか用のベット。
着替えの服。
ついでに、ゆなの服も何着か。
平民街の店を回り、荷物を抱えて帰ってきた俺は、空いている部屋にしずかのベットを置こうとして――そこで止められた。
「待ってください!」
声を上げたのは、ゆなだった。
「しずかさんは、私と一緒に眠ればいいじゃないですか!」
「……え?」
思わず手が止まる。
しずかはと言えば、相変わらず感情の起伏が薄い表情で、
「どこでもいい」
とだけ答える。
「いや、一人一部屋の方がよくないか?」
俺は率直に言った。
「ゆなも、前に一人でゆっくりできる部屋が欲しいって言ってただろ?」
「……それは、そうなんですけど」
ゆなの歯切れが悪い。
視線が泳ぎ、少しだけ頬が膨らむ。
「だって……」
ぎゅっと拳を握りしめて、意を決したように言った。
「しずかさんが触れるようになってから、一緒に眠ると……すごく寝心地がいいんです!」
「……寝心地?」
「わがままだって分かってます!
でも、一緒に寝たいんです!」
必死な様子に、思わず黙る。
ただ――
ゆなの視線が、ちらちらとしずかの胸元に向かっているのを、俺は見逃さなかった。
(……私情、入ってないか?)
前に、触れられなかったとか何とか言ってた気がする。
俺は咳払いをして、しずかに向き直る。
「しずかは、どうしたい?」
できるだけ真剣に、逃げ場のない問いを投げた。
「正直な意見が聞きたい」
しずかは少し考え込み――
そして、静かに口を開いた。
「……たけると、一緒の部屋がいい」
「「えっ!?」」
俺とゆなの声が、見事に重なった。
「な、なんで?」
思わず聞き返す。
しずかは、淡々と、けれど確かな言葉で答えた。
「見えなくなることがある。
物に触れられなくなることもある」
俺たちを見る。
「それが、いつ起きるか分からない。
だから、確実に見える人のそばがいい」
言葉は静かだったが、そこにある不安ははっきり伝わってきた。
俺も、ゆなも、言葉に詰まる。
原因は分からない。
今は大丈夫でも、また突然“誰からも見えなくなる”可能性は否定できない。
(……それは、怖いよな)
ただ――
(とはいえ、美人な幽霊と同じ部屋で寝るのはどうなんだ?)
考え込んでいると、ゆなが一歩前に出た。
「たけるさん」
真っ直ぐな目で、はっきり言う。
「しずかさんは、たけるさんと一緒の部屋に寝るべきです」
「……いいのか?」
「はい」
少し照れたように、でも優しく笑う。
「私がしずかさんと同じ立場だったら……
きっと、同じこと言っちゃうと思います」
本当に、よくできた子だ。
俺は観念して、ため息をついた。
「……分かった」
こうして結論は出た。
しずかのベットは、俺の部屋に。
一緒のベットではないが、同じ部屋で眠る。
それで、今はいい。
ベットを運び、並べ終えて一息ついた、その時。
こんこん、と控えめなノック音。
「……すまない」
聞き覚えのない、男の声。
俺としずかは顔を見合わせる。
(……誰だ?)
嫌な予感が、静かに胸をよぎった。
俺はゆっくりと、扉へ向かった。




