救世主は彼に託され、俺は家へ帰る
イメージした通り、
ウィルの腰の辺りが――一瞬だけ、ぱっと淡く光った。
(……よし)
確認したかったが、その暇はなかった。
「どうした!?」
「何があった!?」
護衛、ルナ、コウヘイ、そしてアスタナが一斉にこちらへ近づいてくる。
俺はすぐにウィルから身体を離し、
大げさなくらいの声を張り上げた。
「こいつです!」
全員の視線が集まる。
「この男が――アスタナ様が言っていた救世主です!」
「えっ……?」
ウィルが目を丸くする。
「腰の辺りに、アスタナ様がお探しだった紋章があるそうです!」
「なっ――!」
アスタナと護衛たちが、同時に息を呑んだ。
「本当ですか!?」
アスタナが一歩前に出る。
一方で、コウヘイとルナは完全に置いてけぼりだ。
「……紋章?」
「なんの話だ?」
俺はすかさず続ける。
「アスタナ様?」
わざと、少し強めに言う。
「確認されてはどうでしょうか?」
視線を、まっすぐアスタナの目に向ける。
――これ、
いつも俺がやられてるやつだ。
アスタナは一瞬だけ考え込み、
そして護衛へ向き直った。
「……確認してください」
その言葉を受け、護衛がウィルの元へ向かう。
(俺の時は全裸にしようとしてたよな?
この差、なんだよ)
心の中で小さく毒づく。
だが次の瞬間――
「姫様!」
護衛の声が弾んだ。
「この者の腰部に、文献通りの紋章を確認しました!」
「――――!!」
「救世主様です!」
高らかな宣言。
周囲の護衛たちから歓声が上がる。
「おおお……!」
「まさか、こんな若者が……!」
空気に飲まれたように、
コウヘイとルナも声を上げる。
「すげぇ……!」
「本当にいたんだな……!」
肝心のウィルはというと、
「え? え? 俺……?」
完全に混乱していた。
俺はその様子を見て、
小さく、軽く拍手した。
(……はい、成立)
結果が出た。
それで十分だ。
(……すまないな、ウィル)
心の中で、静かに謝罪する。
犠牲にした自覚は、ちゃんとある。
ウィルはそのまま、
「大事な存在」として丁重に扱われ、
王城へ向かう馬車に乗せられていった。
馬車が動き出す直前、
アスタナがちらりとこちらを振り返る。
白銀の髪を揺らし、
どこか納得していないような目で、
じっと俺を見つめていた。
(……見るな)
俺は視線を逸らした。
その後、護衛の一人に促され、
俺、ルナ、コウヘイの三人は
ハローワークっぽい施設へ同行することになった。
受付で護衛が事情を説明する。
「今回の討伐についてだが――」
受付嬢は書類に目を落とし、淡々と告げる。
「本来は一体のみの討伐依頼でしたが、
結果として四体の魔物が討伐されています」
ペンが走る音。
「そのため、報奨金は規定より増額されています」
銀貨の入った袋が、カウンターに置かれた。
「……多くない?」
思わず口に出る。
「いいじゃん!」
ルナが笑う。
「大仕事だったしな!」
コウヘイも頷く。
「命張ったし、妥当だろ」
俺は少し考え、
その場で袋を開け、銀貨を三等分した。
「はい」
「え?」
コウヘイとルナが同時に声を上げる。
「俺ら、ほとんど何もしてないぞ?」
「いい」
俺はきっぱり言った。
「これで終わりにしたい」
二人を見る。
「これ以上、
一緒に討伐だなんだするつもりはない」
強引に、
それぞれの手に銀貨を押し付けた。
何か言いたそうにしていたが、
俺はもう限界だった。
「……じゃあな」
それだけ言って、
家へと向かう。
家に帰ると、
「おかえりなさい!」
ゆなが、ぱっと顔を明るくして迎えてくれた。
その奥で、
いつもの椅子に座っているしずかが、
静かに言う。
「……おかえり」
それだけで、
胸の奥がすっと軽くなる。
討伐の話は、しなかった。
今日は、それでいい。
俺は黙って風呂を沸かし、
ゆな、
しずか、
そして俺。
順番に風呂に入り、
夕食を食べ、
何事もなかったかのように夜を過ごした。
布団に横になり、
目を閉じる。
(……明日も、普通の日でいい)
そう思いながら、
俺は静かに眠りについた。




