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歓声の裏で、身代わりは選ばれる

肉片となった魔物の残骸を、ただ呆然と見つめていた。


 血の匂いと、静寂。


 ――その直後だ。


「うぉおおおおっ!!」


 割れんばかりの歓声が上がった。


 意識を引き戻され、びくっと身体が震える。


「よくやってくれた!」


 負傷した護衛が、息を切らしながら駆け寄ってくる。


「貴殿がいなければ、この場にいる者は全滅していたでしょう」


「姫様を、よくぞお守りくださった!」


 称賛、称賛、称賛。


 世界を守るだとか、困っている人を救うのが当然だとか、

 そういう人間なら、ここで胸を張るのだろう。


 だが――


(……来る)


 俺は、心の底から嫌な予感しかしなかった。


 背後に、弾んだ気配。


「たけるさん!」


 振り向くまでもない。


 白銀のセミロングを揺らし、華奢で小柄、どう見ても美少女な第二王女――アスタナ。


「やはり、あなたが救世主だったのですね!」


 きらきらとした瞳で、羨望のまなざしを向けてくる。


「私の直感は、間違っていませんでした!」


 さらに、いつの間にか近くまで来ていたコウヘイとルナ。


 金髪ウルフカットの筋肉質なコウヘイは、感心したように笑い、


「流石だな……」


 赤茶色の髪を一つに結んだルナも、興奮気味に言う。


「やっぱりな!すげーよ!」


 ――ああ、見える。


 このまま、

 救世主として祭り上げられる未来が、はっきりと。


 俺は、絶望していた。


 その時。


「ありがとう!」


「助かった!」


 先ほど俺たちの背後に滑り込んできた、三人の男が声をかけてきた。


「……すまない」


 それぞれ反応は違ったが、

 一人だけ、明らかに様子のおかしい男がいた。


 仲間から、どこか居心地の悪そうな視線を向けられている。


(……あいつだ)


 俺はその男の肩を軽く抱き、

 周囲から少し離れた場所へ連れていく。


「ちょっと、いいか」


 声を落とす。


「君たち、なんで魔物に追われてた?」


「それと――」


 男の目を見て続ける。


「君だけ、仲間から不穏な視線を向けられてた。

 訳、話してもらえる?」


 軽く圧をかけると、

 男は一瞬目を伏せ、観念したように口を開いた。


「……ウィルです」


 十八歳の平民だという。


 金髪で、少し気弱そうな顔立ち。

 背も俺より低く、どこか頼りないが、

 妙に“主人公っぽい”雰囲気をしている。


 話を聞くと、こうだ。


 家族のためにこの街へ来たこと。

 以前、森で“危険指定の魔物の死骸”を偶然見つけたこと。


 ――それは、俺が長の依頼で森に行った時、倒したやつだ。


 魔物の一部を採取して役所へ持ち込んだところ、

 なぜか「討伐した英雄」として祭り上げられた。


「違うって、言ったんです……」


「でも、誰も聞いてくれなくて……」


 周囲は勝手に盛り上がり、

 討伐者として歓迎された。


 そして今日。


 一緒にいた二人の男が、


「本当なら、もう一度倒せるだろ?」


 と、無理やり確かめに来た結果――この惨状。


 話を聞き終えた瞬間、

 俺の中で、ひらめきが弾けた。


(……こいつ、使える)


 正確には、

 身代わりにできる。


 一瞬、良心が疼いたが、

 すぐに別の考えが浮かぶ。


(光が出せるなら……

 “紋章”も、作れるんじゃないか?)


 ふと、そんな考えが頭をよぎった。


 アスタナが必死になって探していた、あの印。

 王城の一室で見せられた、古びた文献に描かれていた紋章。


(……そういえば)


 思い出そうとした、その瞬間だった。


 なぜだか分からない。

 曖昧だったはずの記憶が、急に輪郭を持つ。


 線の太さ。

 曲線の角度。

 中央の意匠と、外周に刻まれた意味不明な文様。


(……はっきり、見える)


 まるで、

 最初から知っていたかのように。


 頭の中に、正確な紋章が――

 寸分の狂いもなく、くっきりと浮かび上がっていた。


(……なんだ、これ)


 理由は分からない。

 考える余裕も、なかった。


 今は――

 使えるかどうか、それだけだ。


 俺は、小さく息を吐き、決めた。


「なあ、ウィル」


 できるだけ穏やかな声で言う。


 突然名前を呼ばれ、

 ウィルはびくっと肩を震わせた。


「は、はい……?」


「ちょっと、動くなよ」


「え? な、なにを――」


 言いかけたウィルに、

 俺はすぐ付け足す。


「魔術的な処置だ。

 他意はない」


 ……多分。


 ウィルは不安そうにしながらも、

 こくりと頷いた。


 俺は集中する。


 頭の中にある“完全な紋章”。

 さっきまで曖昧だったはずのそれを、

 今度は意識的に、強く描く。


 刻印が、浮かび上がるイメージ。


 位置は――腰の後ろ。


 服越しに、

 軽く触れて固定するだけ。


 触れた指先に、

 わずかな熱が集まるのを感じる。


(……行け)


 次の瞬間、

 淡い光が、ぱっと弾けた。


 ほんの一瞬。

 だが、確かな手応え。


 ウィルが小さく声を上げる。


「っ……今、なんか……」


「気にするな」


 俺は即座に手を離し、

 何事もなかったように一歩引いた。


 ――これで、

 救世主は俺じゃなくていい。


 歓声の中心に立つのは、

 別の誰かでいい。


 俺は、静かに息を吐いた。

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