予定外四体と、光の格子
「到着しました!」
護衛の声が響き、俺たちは馬車を降りた。
アスタナはすぐに護衛に止められ、馬車の中で待機となる。
「姫様はこちらでお守りします」
「えー……外、見たいです……」
「危険ですので」
渋々と馬車に戻る白銀の髪の美少女を横目に、
俺たちは森の方へと向かった。
金髪ウルフカットで筋肉質なコウヘイは剣を抜き、
赤茶色の髪を一つに結んだルナも、慣れた手つきで武器を構える。
護衛の数名も散開し、周囲を警戒していた。
「……なあ」
俺はふと思ったことを口にする。
「俺、武器ないんだが?」
「大丈夫だって!」
コウヘイが軽く笑う。
「今回は俺らが倒す番だ!」
「そうそう!」
ルナもやけに楽しそうだ。
「何かあったら魔法でやっつけてくれ!」
……軽い。
討伐依頼は基本的に、
普通の人間がやるものじゃない。
だが二人とも、
テンションが明らかに上がっていた。
馬車から少し離れ、
魔物を探して森へ踏み込んだ、その時。
「た、助けてくれー!!!」
前方から、必死な声。
見ると、三人の男がこちらに向かって全力で逃げてくる。
「警戒!」
護衛の一人が叫ぶ。
俺たちも身構え、視線を凝らす。
次の瞬間――
逃げる男たちの背後から、
巨大な影がいくつも現れた。
「なにっ……!?」
護衛の声が裏返る。
「レイザーベアーが……四体だと!?」
「聞いていないぞ!」
別の護衛が叫ぶ。
「姫様を守れ!!!」
一気に、空気が張り詰めた。
逃げてきた三人は、
俺たちの後ろへ滑り込むように倒れ込む。
「攻撃開始!」
号令と同時に、
コウヘイ、ルナ、護衛たちが一斉に動いた。
だが――
相手は一体の予定だったはずだ。
四体同時となると、
明らかに戦力が足りていない。
「くっ……!」
コウヘイが弾き飛ばされ、
「きゃっ!」
ルナも衝撃で地面を転がる。
護衛たちも次々と吹き飛ばされ、
陣形は一瞬で崩れた。
そして――
四体のレイザーベアーが、
一直線にこちらへ向かってくる。
俺のすぐ前に、
馬車を守っていた護衛の一人が立ち塞がった。
「下がれ!」
だが、どう見ても止められる距離じゃない。
(……やばいな、これ)
ようやく、
はっきりと危機感が湧いた。
雷なら一体は倒せるかもしれない。
だが、四体は無理だ。
距離も、もうない。
(どうする……)
その瞬間、
ふと頭に浮かんだ映像があった。
――ゾンビ映画で見た、
光の線で敵を切り刻む、あのシーン。
(……あれだ)
魔物が突っ込んでくる位置。
護衛より少し前。
そこに――
切断する光の格子が置かれるイメージ。
俺は、手をかざした。
次の瞬間。
空間に、
淡く輝く光の格子が出現した。
「――っ!?」
(……これも、できるのかよ)
一瞬そう思ったが、
確認する暇はなかった。
勢いのついたレイザーベアーたちは、
そのまま次々と光の格子へ突っ込んでいく。
――ズシャッ。
――ズンッ。
肉が裂け、
骨が断たれ、
魔物の肉片が宙を舞った。
四体すべてが、
俺に届く前に崩れ落ちる。
静寂。
血と肉片が、
地面に散らばっていた。
俺は、
自分の手を見下ろした。
(……戦うための魔法、か)
そんな言葉が、
頭の中をよぎった。
――そして。
この瞬間から、
俺はもう「たまたま倒しただけの一般人」では
いられなくなったのだと、
どこかで理解していた。




