逃げ場のない待ち合わせと、馬車に乗る災厄
仕事をさぼって魔物討伐に行くわけにもいかない。
結局、休み日に合わせて討伐へ向かうことになった。
場所は東の方。
平民街の外れで待ち合わせだ。
時間通りに到着すると、すでにルナとコウヘイがいた。
赤なのか茶色なのか判別しづらい髪を一つに結んだルナは、相変わらず活発そうで、胸元の主張も遠慮がない。
隣には、金髪のウルフカットに筋肉質な体つき――どう見てもいい男なコウヘイが腕を組んで立っている。
「お、来たな」
コウヘイが手を振った、その――後ろ。
俺は、言葉を失った。
豪奢な馬車。
その周囲を固める、数人の護衛。
(……いやな予感しかしない)
そっと踵を返そうとした、その瞬間。
「たけるー!」
聞き覚えのある、元気すぎる声。
馬車の扉が開き、
白銀のセミロングの髪を揺らしながら、華奢で小柄、どう見ても美少女な第二王女――アスタナが降りてきた。
(あ、終わった)
「ルナから聞いています!」
にこにこと距離を詰めてくる。
「討伐依頼ですよね?
本来は国が管理すべき案件ですから、万が一のために今回は同行させていただきます!」
……つまり。
(倒せなかったら国がやるってことだよな?
じゃあ俺ら帰ってよくない?)
喉まで出かかったが、
ルナとアスタナという“頭のおかしい二人”が揃っている時点で、
俺の意見が通る未来は見えなかった。
「……はい」
力なく頷くしかなかった。
「では、馬車へどうぞ!」
「いや、俺は――」
「遠慮なさらず!」
強引に話が進み、
気づけば俺はアスタナと二人きりで馬車に乗せられていた。
ルナとコウヘイは武器を所持していたため、護衛に止められる。
「武装者は馬車に乗せられません」
「えーっ!」
ルナが不満そうに声を上げる。
「じゃあ歩きだな」
コウヘイは苦笑いしつつ、護衛たちと一緒に歩き出した。
馬車の中。
「改めて、前回はありがとうございました!」
対面に座っていたはずのアスタナは、
いつの間にか俺のすぐ隣にいる。
(……近い)
少し離れると、また寄ってくる。
俺は諦めて、無の境地で会話を続けた。
「前回は雷でしたよね?
今日はどんな魔法で倒されるんですか?」
「いやー、前回はたまたまです」
正直なところ、
今の魔法の使い道は風呂と飲み水が九割だ。
「その後は使っていませんし、
次も使えるかどうか……」
「まあ!」
なぜか楽しそうに目を輝かせる。
「では、どんな魔物かご存じですか?」
アスタナは一枚の紙を広げた。
絵に描いたような魔物。
距離が近すぎて、自然と彼女の匂いが鼻に届く。
(……なんだ、この匂い)
甘いとかじゃない。
清潔で、澄んだ匂い。
無意識に視線を向けると、
なぜか絵ではなく、俺を見つめているアスタナと目が合った。
「どうされました?」
にこっと微笑む。
「私のこと、そんなに見つめて」
「……いや」
正直に言う。
「すごくいい匂いだなって思って」
「ふふ」
アスタナは楽しそうに笑い、
「もっと近くで嗅いでみてもいいんですよ?」
ぐいっと、さらに距離を詰めてくる。
普通ならドキッとする場面だろう。
だが――
(こいつは頭がおかしい)
その認識が強すぎて、
匂いは気になるが、感情はまったく動かない。
(それより、その匂いの正体を教えろ)
そう思った瞬間、
「到着しました!」
護衛の声が馬車の外から響いた。
助かったような、
助かっていないような。
こうして俺は、
王女同行という最悪の条件付きで
魔物討伐へ向かうことになった。
――嫌な予感は、
まだ始まったばかりだった。




