二日目、魔法の話は聞き流した
二日目の朝。
宿の共同井戸で汲んだ水を使い、ぼろい布を絞って顔と身体を拭く。冷たいが、目は覚める。鏡なんてものはないが、たぶん昨日と同じ、やる気のない顔をしているはずだ。
朝食は宿についていた。
硬めのパンと、薄いスープ。味は期待していなかったが、空腹にはちょうどいい。生きるための食事、という感じだ。
昨日と同じように、俺は土木現場へ向かった。
現場に着くと、長が腕を組んで立っていた。
「おう、今日も来たか。よろしくな」
軽く手を上げて挨拶を返し、昨日と同じように仕事に取り掛かる。
今日は昨日よりも少し楽な配置らしく、周囲には女性の姿もあった。
土を運びながら、喉が渇いたなと思った、その時だった。
「君、昨日も来てたよね?」
声をかけてきたのは、赤なのか茶色なのか判別しづらい髪色の女性だった。
髪は一つに結ばれ、胸はふくよかで、全体的にスタイルも悪くない。顔立ちも整っていて、活発そうな雰囲気をしている。
「若そうだけど、もっと立派な仕事をしたいと思わない?」
――ああ、これ、宗教の勧誘か。
内心そう思いながら、俺は「別に」とそっけなく返事を返す。
すると彼女は気にした様子もなく、続けた。
「ちなみにだけど、魔法は使えるのかな? 使える人は使えるみたいだし、君は使えそうな気がしたんだよね!」
わけがわからない。
魔法ってなんだよ。この世界に来て二日目だぞ。
口を動かす前に、手を動かせよ。
そんなことを思いながら、適当に首を振る。
「もしかして、魔法を知らない? そんなことないよね?」
なぜか話だけが勝手に進んでいく。
俺は彼女より、少し離れた場所で作業している男の方が気になっていたのだが、どうにも距離を詰めてくる。
正直、うっとうしい。
「魔法はね、イメージが大事なんだそうだよ。やってみればできるかもしれない! やったことがないなら、試してみない?」
――ああ、出た。
どこかで読んだ異世界モノの定番のやり取り。
余計に面倒くさくなった俺は、返事もせず、黙って別の作業場所へ移動した。
それ以降、その女とは少し離れた位置での作業になり、俺は淡々と仕事をこなした。
日が傾く頃には、昨日と同じように金を受け取り、宿へ戻る。
部屋に入ると、朝と同じように布で顔と身体を拭き、ベッドに寝転がる。
天井を見上げながら、これからのことを考えた。
毎日仕事をして、金を稼いで、適当に休んで。
そのうち、どこか別の街に行ってみるのも悪くない。
――そんなことを考えていると、昼間にしつこく話しかけてきた女の言葉が、ふと思い出された。
「魔法はイメージが大事」
試してみるか、と思わなくもない。
だが、こんな狭い部屋でやることでもないだろう。
「……また今度でいいか」
そう呟き、俺は目を閉じた。
異世界二日目の夜は、特に何も起こらないまま、静かに過ぎていった。




