紋章の有無と、直感という名の暴走
数人の侍女が控え、
白銀の髪を揺らすアスタナと、渋い護衛のおじさんが二人。
この状況で――
「服を全部脱いでください!」
と言われて、固まらない人間がいるだろうか。
俺は完全にフリーズしていた。
(……どういう流れでそうなる?)
言葉も出ないまま立ち尽くしていると、
「コホン」
と、低い咳払いが響いた。
「姫様」
護衛の一人が、落ち着いた声で口を開く。
「まずは説明をなさってから、
必要なものだけ脱いでいただく方がよろしいかと」
「何も説明がないままでは、混乱されてしまいます」
……だよな。
王様はまともだったが、やはりこの王女だけが飛び抜けている。
護衛のおじさんは、
「すまぬな」
と言いたげな視線を、ちらりと俺に向けてきた。
「……そうですね!」
アスタナはぱっと表情を変え、
「先走ってしまいました!」
てへっ、と可愛く笑う。
いや、可愛いけど許されると思うなよ。
「国に残る文献にはですね」
アスタナは楽しそうに語り始めた。
「この国の危機に、救世主のような者が現れると書かれているんです!」
「その者の身体には“紋章”が浮かび上がり、
魔法や剣、何かしら突出した力を持つ、と」
なるほど、テンプレだ。
「ルナから、あなたのことは逐一報告を受けていました」
……やっぱり、あいつか。
「魔法を二つも扱える人は、まずいません。
ですから、もしかして……と思いまして!」
説明は理解できた。
理解はできたが――
「説明は終わりました!」
アスタナは満面の笑みで言った。
「服を脱いでください!」
……結論、そこか。
事情が事情だ。
俺は諦めて、パンツ一枚になる。
「まあ!」
アスタナが嬉しそうな声を上げ、俺の身体をまじまじと眺める。
その間に、護衛の二人が一歩近づいた。
「失礼する」
そう一言断り、
二人で俺の身体をじっくり観察し始める。
……何だこれ。
(これ、なんてプレイだ?)
見ているのが渋いおじさん二人、という点も相まって、
若干、テンションが上がる自分がいるのが怖い。
(このまま、この場で汚されるのか?)
馬鹿なことを考えながら目を閉じていると、
「……確認できませんでした」
護衛が、アスタナに報告した。
「そんなはずありません!」
アスタナは食い下がる。
「まだ見ていない場所があるではないですか!」
嫌な予感がする。
「そのパンツの下に紋章があったら、どうするんですか!?」
……やっぱり、全裸にしたいだけだろ。
姫の言葉だ。
逆らえない。
護衛の二人は、再び「すまぬ」と言い、
少しだけパンツをずらした。
「……これは」
護衛の一人が、声を漏らす。
「やはり、あったのですね!」
アスタナが身を乗り出す。
「いえ……紋章ではありませんが……」
護衛は困惑したように、俺に問いかけてきた。
「これは……何だ?」
正直なところ、俺の腰の辺りには、
結構派手なタトゥーが彫られている。
(……あー、これか)
以前の世界で、通っていたバーの常連に彫り師がいて、
意気投合した勢いで彫られたものだ。
この世界にタトゥーがあるのかは分からない。
「針で、身体に模様を入れたものです」
簡単に説明すると、
「部族の者が身体に印す、あれか?」
護衛が首を傾げる。
違う気もするが、説明が面倒だ。
「……たぶん、それと似たようなものです」
適当に濁す。
護衛は納得したのか、
紋章の絵が描かれた紙と、俺の腰のタトゥーを見比べ始めた。
そこにアスタナも参戦し、三人でまじまじと確認する。
しばらくして――
「……紋章では、ありませんね」
結論が出た。
「そんなはずありません!」
アスタナは最後まで認めなかったが、
ないものは、ない。
一応、決着はついた。
「ですが!」
アスタナは、きっぱり言った。
「紋章がなくても、たけるさんは絶対に救世主だと思います!」
……まだ言うか。
「どうして、そこまで確信しているのですか?」
素朴な疑問を投げる。
アスタナは胸を張った。
「私の直感は、昔からよく当たるんです!」
「だから、たけるさんだと思っています!」
……根拠、直感。
(鋭い人って、いるよな)
俺は上の空で聞き流し、
「……はぁ」
と、そっけなく返事をした。
こうして俺は、
一旦“救世主ではない”という結論のもと、
王城を後にすることになった。
――だが。
あの王女が、
これで諦めるとは、到底思えなかった。
嫌な予感だけが、
静かに、背中に張り付いていた。




