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見えたり消えたりと、椅子の取り決め

しずかと他愛ない話をしながら夕食の準備をしていると、玄関の方から足音がした。


「ただいまです!」


 ゆなの声だ。


「おかえりー」


 そう声をかけると、ゆなは靴もそこそこに、勢いよくこちらへ走ってきた。


 ……俺の方ではない。


 視線の先は、しずか。


「消えたんじゃなかったんですね!」


 少し涙目になりながら、ゆなはしずかの前で立ち止まる。


「急に見えなくなるから、びっくりしちゃいました……」


 やっぱり、俺がいない間は本当に見えていなかったらしい。


「……たけるが、いなかったから」


 しずかが淡々と答える。


「なるほどな」


 とりあえず落ち着こう、ということで、俺が風呂を温め、ゆなには先に入ってもらうことにした。


「今日は、しっかり温まってきな」


「はい!」


 しばらくして、湯気と一緒にゆなが戻ってくる。


「……気持ちよかったです」


 ほっとした顔だ。


 三人で夕食を囲みながら、ゆなが切り出す。


「それで……どういうことなんですか?」


 俺は、これまでにしずかから聞いた話を、そのまま説明した。


 俺が家にいると見えること。

 外に出ると見えなくなること。

 物に触れられたり、触れられなかったりすること。


「……理由は、まだ分からない」


 説明を終えても、答えは出ない。


 ゆなは腕を組み、うーんとうなった。


「……たけるさん」


「ん?」


「一度、外に出てみてもらえますか?」


 ああ、検証したいんだな。


「いいよ」


 俺は玄関を出て、数秒だけ外に立ち、すぐに戻った。


 椅子に座る。


「どう?」


 ゆなはしずかのいるはずの場所を見て、首を振った。


「……やっぱり、見えません」


 頭を抱える。


「意味がわかりません……」


 その仕草があまりにも分かりやすくて、思わずくすっと笑ってしまった。


「そんなに悩まなくてもさ」


 俺は気楽に言う。


「見えなくても、家にはいるんだろ?

 心配しなくていいと思うぞ」


 だが、ゆなは真剣だった。


「いやいや、もしもですよ?」


 身振り手振りを交えて続ける。


「私が何も考えずに椅子に座ったら、

 先にしずかさんが座ってたらどうするんですか!」


「その状態で、たけるさんが帰ってきたら……」


 一拍置いて。


「私、しずかさんの上に座ってることになりますよね!?」


「……なるな」


 想像してみる。


 ちょっと面白い。

 だが、本人はたまったものじゃない。


「……別に、気にしない」


 しずかはそう言ったが、


「気にします!」


 ゆなは即答だった。


 結局、見えなくなった時のために、

「ここはしずかさん専用の椅子」

「この辺りは避ける」

など、二人であれこれ取り決めを始めた。


 俺はその様子を眺めながら、

(なんだかんだ、うまくやってるな)

と内心思っていた。


 話し合いも一段落し、そろそろ寝る時間になった時、

ゆながふと首をかしげた。


「……そういえば」


 しずかを見る。


「しずかさんって、どこで寝てるんですか?」


「昨日は、そのことまで頭が回ってなくて……」


「……空いてる部屋の、床」


 しずかが答える。


「えーっ!!!」


 ゆなが大きな声を上げた。


「ダメですよ!

 見えてなかった時ならまだしも、今は普通に生活してるんですから!」


「ベットで寝なきゃ!」


「……大丈夫」


「大丈夫じゃありません!」


 しばらく押し問答が続いた結果――


 今夜は、ゆなと同じ部屋で寝る。

 お金に余裕ができたら、空いている部屋にしずか用の寝床を用意する。


 そんな形で落ち着いた。


「……決まりですね」


 ゆなが念押しする。


「……わかった」


 しずかは静かに頷いた。


 こうして、

 三人の生活は、少しずつ形を整えていく。


 見えたり、消えたり。

 触れたり、触れなかったり。


 不便もあるが――

 それでも、悪くない日常だった。

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