温泉の余韻と王の説教
あしんに運んでもらい、俺たちは街へと高速で帰っていた。
風を切る音の中、女性陣はどこか満足そうにのんびりとしている。
だが俺だけは、どうしても納得できない事があった。
誰かに話しているわけではないが、思わず口に出す。
「そういえばさ」
風に揺られながら呟いた。
「ぐったりしてた子、前にもあの温泉で見たような気がするんだよな」
その言葉に女性陣は一瞬だけ固まった。
だがすぐに、まるで示し合わせたように言葉を返す。
「えっ?そんな子いましたっけ?」
ゆなが首を傾げる。
「……知らない」
しずかはいつもの無表情で答えた。
「そんな可愛らしい少女は知らん」
ミラは腕を組んで言い切る。
そして最後にユリアナがくすっと笑った。
「温泉は気持ちよかったですからねぇ。幻でも見たのでしょう」
全員の言葉は一致していた。
少しだけミラの言い方が引っかかったが、深く考えるのはやめた。
(まあ、また温泉に行けば会うかもしれないしな)
そう思った瞬間。
俺の膝の上にいるエンデのしっぽがぺしぺしと当たる。
あしんに指示を出しているらしい。
「おい、痛いって」
そう言いながらエンデを見ると、さっきの少女の事なんてすっかり頭から消えていた。
体感ではあるが、行く時より帰りの方が早く感じた。
あっという間に街へ到着する。
あしんがゆっくり降下すると、俺たちはぞろぞろと降りていく。
ユリアナは気持ちよさそうに伸びをした。
「うーん、楽しかったわ」
そしてこちらを振り向く。
「今回は本当に楽しかったです。また頼むことがあるかもしれませんから、その時はよろしくお願いしますね?」
(いやだなー)
内心そう思ったが、表面上は頷く。
「わかりました」
その時だった。
「お待ちしておりました」
声がかかる。
ローワンだった。
「馬車は待たせてあります。すぐにご帰還下さい」
その言葉にユリアナは楽しそうに笑う。
「まぁ!やっぱり気づくわよね」
そして軽く手を振った。
「さぁ帰りましょう」
くるりと振り返りながら、さらっと言う。
「たけるも怒られるかもしれないけれど、私が先に宥めておくから安心しておきなさい」
「いや、それは――」
言い返す前に、ユリアナたちはそのまま城へ戻っていった。
ユリアナたちが去った後、俺たちは家へ戻る。
いつもの席に座ると、ゆなが満面の笑みで言った。
「すっごく楽しかったです!」
「うん」
しずかも小さく頷く。
「でも、ちょっと疲れちゃいました」
ゆなが笑う。
俺はため息を吐いた。
「いや、楽しかったけどさ」
「最後のあの言葉は何?」
二人を見る。
「俺が王様に怒られる事、確定みたいな言い方だったんだけど」
すると、しずかは淡々と答える。
「……勝手に王妃を連れ回したら当然のこと」
「こんこんと説教されるだけだと思うから大丈夫」
「いやいやいや!」
思わず身を乗り出す。
「俺は断れないから流されるままに受けただけだよな!?」
「俺が説教受けるのは違うだろ!?」
必死に弁明する。
だがしずかは首を振った。
「たける」
「流されたとしても、受けた事実は変わらない」
「そうして厄介事に巻き込まれるのだから、もう少し考えて動くべき」
「今回はおとなしく説教を受けたらいい」
ゆなも笑いながら頷く。
「ですね!」
「今回はおとなしく説教されてきて下さいね」
「味方いないの!?」
俺は机に突っ伏した。
「お前達くらい俺の味方してくれてもいいだろ……」
軽く夕食を済ませる。
風呂にも入り、身体はぽかぽかしていた。
今日はもう眠ることにする。
なぜかエンデが俺の味方をしているようにくっついてきた。
「なんだお前」
頭を撫でる。
エンデは気持ちよさそうに目を細めた。
そのまま撫でながら、俺は眠りについた。
次の日。
朝食を食べ終えたタイミングでドアがノックされる。
出ると、城からの呼び出しだった。
(ああ……)
しずかの言った通りになった。
重い気持ちのまま城へ向かう。
城に着くと――
朝っぱらからカエサルにこんこんと説教された。
「王妃を勝手に連れ出すとは何事だ」
「いや、それは――」
弁明する間もなく話は進む。
そして最後に告げられた。
「予定が前倒しできそうだ」
「明日には干ばつ地域へ向かう」
連れて行く人数、必要なもの。
いくつかの指示を受け、俺は家へ戻る事になった。
家に戻り、しずかへ事情を説明する。
「干ばつ地域に行くのに薬が必要らしい」
「……わかった」
城から預かった薬草と、しずかに言われて買ってきた材料を並べる。
しずかは手際よく調合を始めた。
俺は箱に詰めたり、細かい作業を手伝う。
明日問題なく出発できるよう準備を進めた。
さらにゼファーにも手紙を送る。
慌ただしく時間が過ぎていく。
しばらくして。
窓の外から羽音が聞こえた。
ゼファーのハヤブサだ。
運んできた手紙を開く。
内容を確認する。
「……同行?」
ゼファーとリリイも一緒に来るらしい。
状況によっては日数がかかるからだという。
だがその手紙には、もう一つ書かれていた。
「……鳥の世話をする人間を寄こせ?」
俺は頭を抱えた。
「無茶言うなよ……」
急いで城へ向かう。
護衛に事情を説明すると、慌てて城の中へ走っていった。
しばらくして戻ってくる。
「明日、手配するそうだ」
「助かった」
とりあえず準備は整った。
家へ戻る。
明日には出発だ。
俺は小さく息を吐いた。
「勝手な事する人間が多いと苦労するな……」
そんな事を思いながら。
明日に備えて、俺たちは早めに眠る事にした。




