表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/153

温泉の楽園と、理不尽な鉄拳

貸し切り状態の温泉には他の客の姿はなく、五人はゆったりと湯を堪能していた。


 湯気の立ち込める中、ユリアナが感心したように声を漏らす。


「本当に綺麗な肌ねぇ。エンデちゃんも何かしているのかしら?」


 その言葉にエンデは肩まで湯に浸かったまま首を傾げる。


「特に何もしておらんな」


「そうなのねぇ。少し触ってもいいかしら?」


 エンデはちらりとミラの方へ視線を向けた。


「そやつのように無作法に触らないのであれば構わん」


 ミラがぴくりと眉を動かす。


 ユリアナは小さく笑った。


「普通に触るだけだから大丈夫ですよ」


 そう言ってエンデの腕にそっと手を触れる。


 指先で確かめるように撫でる。


「まぁ……本当にすべすべね」


 見た目の幼さもあるが、エンデの肌は驚くほど滑らかだった。


「羨ましいわぁ」


 何度か触って満足したのか、ユリアナは身体を湯に沈め直した。


 その様子を見ていたミラが顎に手を当てる。


「確かに、私より肌艶(はやつだ)がよさそうですね」


 そして視線をしずかへ向けた。


「しずかさん?少し触れてみても?」


「……ダメ」


 短く答え、しずかは一歩だけミラから距離を取る。


 何かを察したらしい。


 ミラはがっくりと肩を落とした。


「残念です」


 そして今度はゆなの方へ向き直る。


「ゆなさんなら大丈夫ですよね?」


 にっこりと笑いかける。


 ゆなは少し困った顔をしたが、苦笑いを浮かべた。


「だ、大丈夫ですよ」


「それでは失礼して」


 ミラの表情は先ほどと同じ笑顔だが、どこか目が血走っているようにも見える。


 ゆなの肩にそっと手を置き、肌に触れる。


 丁寧な手つきだが、どこか怪しい。


「く、くすぐったいです」


 ゆなは笑いながら身体を引こうとした。


 だがミラは平然としている。


「大丈夫ですよ。女性の肌の扱いには慣れていますからね」


 にこりと笑う。


「そ、そうなんですね……」


 ゆなは引きつった笑顔のまま、諦めたようにミラの手つきを受け入れた。


 しばらくして。


 ミラは満足そうに息を吐いた。


「大変充実した時間でした」


 顔にはありありと満足した表情が浮かんでいる。


 ゆなは心の底から安堵した。


(やっと終わった……)


 ふと視線を横へ向ける。


 するとエンデの様子がおかしい。


 顔が赤い。


 ぼんやりしている。


「大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ」


 エンデは目を細めた。


「……おっ?大丈夫だが、視界がぼやけるな」


 そう言うと。


 バシャリ。


 いきなり顔を湯船に突っ込んだ。


「エンデちゃん!?」


「エンデ様!?」


 ゆなとミラが同時に声を上げる。


 ミラはすぐさま動いた。


 湯船からエンデを抱き上げる。


「ユリアナ様、失礼致します!」


 声は緊迫している。


「これは湯あたりです!すぐに処置が必要です!」


 だが。


 ユリアナはのんびりした声で答えた。


「そう?大丈夫よー」


 深刻そうなミラとの温度差がすごい。


 ミラはエンデを抱えたまま脱衣所へと走った。


 急いで身体を拭く。


「しっかりして下さい!」


 声をかけながらも、これ見よがしにエンデの身体を堪能している。


 しかし。


 ふと我に返る。


「……いけない」


 すぐにエンデをタオルで包む。


 そして抱きかかえたまま受付へと走った。


「すぐに冷たい水を!」


「冷たいタオルも頼む!」


 女性店員へ声をかける。


 一方その頃。


 男湯。


 貸し切りの温泉を満喫した俺はかなり満足していた。


「いやー……最高だな」


 ここまで一人の時間を楽しむことはあまりなかった。


「たまにはこういうのも大事だよな」


 そんなことを考えながら、待ち合わせ場所である受付へ向かう。


 しかし。


 近くに行くと妙な光景が見えた。


 タオルで身体を隠した女性。


 その腕の中に、小さな女の子が包まれている。


 どう見ても慌ただしい。


「何かあったのか?」


 俺は小走りで近づいた。


 そして気づく。


 抱きかかえられているのは、少し前にこの温泉で見た少女だった。


 額に角のようなものがある。


 見間違えるはずがない。


(ああ、この辺の子なんだろうな)


 軽くそう思いながら声をかけた。


「大丈夫ですか?何かありました?」


 すると。


 女性――ミラがゆっくり振り向く。


 ぎろりと睨んだ。


下卑(げび)た視線で柔肌を蹂躙(じゅうりん)するな!知れ者が!!」


 ぶわっと風が吹いた。


 顎を何かがかすめた。


(いや、ちょっと――)


 誤解を解こうとした瞬間。


 俺の意識は途切れた。


 その場に崩れ落ちる。


 それからどれくらい経ったのか。


 ゆなの声で目が覚めた。


「たけるさん、大丈夫ですか?」


「ああ……気を失ってたっぽいな」


 身体を起こす。


「お風呂から上がったら、たけるさんが倒れていたのでびっくりしましたよ」


「すまん。大丈夫だ」


 頭を掻きながら、さっきの光景を思い出す。


「そういえば……」


 意識が途切れる直前に見た少女。


 周囲を見回す。


 だが、いない。


(あれ?)


 その時だった。


「何をしている」


 ミラの声が飛ぶ。


「ユリアナ様はもうお待ちだ。すぐに帰る必要がある。キビキビ動け」


「は、はぁ……」


(えー……)


 この人のせいで俺気絶したよな?


 多分だけど。


(わけがわからねぇ……)


 疑問だけを残しながら。


 俺達はそのまま街へと戻ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ