温泉という名の楽園
俺達は男湯と女湯に分かれ、「また後で」と言葉を交わしてそれぞれ風呂へと向かった。
今回は空の移動だった為、男の護衛は同行していない。
つまり――
男湯は俺一人。
「貸し切りか……」
思わず口元が緩む。
広い温泉に一人で入れるなんて、かなり贅沢だ。
「これは最高だな」
俺は少しテンションを上げながら湯へと向かった。
一方その頃。
女湯では五人の女性が脱衣所に集まっていた。
ユリアナ、ゆな、しずか、ミラ、そしてエンデ。
きゃっきゃと楽しそうに会話しながら服を脱ぎ始める。
ミラは今回、ユリアナの侍女として付き添っている。
丁寧な手つきでユリアナの衣服を脱がせていた。
だが。
その視線はどこか妙だった。
ユリアナ「ありがとう。こうして温泉に来る機会はなかなか無かったから楽しみだわ」
服を脱ぎ終えたユリアナは嬉しそうに笑う。
タオルを身体に巻き、風呂場へ向かおうとした。
その時だった。
ミラ「ユリアナ様」
真面目な顔でミラが言う。
ミラ「このような場でのタオルは不要であります」
ユリアナ「そうなの?」
ミラ「はい。私が預かりますので、生まれたままの姿で湯を堪能するのが作法かと」
あまりにも真面目な顔で言うものだから。
ユリアナは少し考え――
頷いた。
ユリアナ「そう?じゃあ作法に則って入りましょうか」
ミラ「それが宜しいかと」
ミラの視線は明らかにおかしい。
だがユリアナは疑いもせず。
裸のまま風呂へと向かった。
それを見ていたしずかとゆなも服を脱ぐ。
先ほどの話を聞いていた為、二人もタオルを巻かずそのまま風呂へ向かう。
脱衣所に残ったミラは、まだ服を脱いでいなかった。
その光景を見つめながら、どこか感嘆したような顔をしている。
ミラ「……」
ミラ「それでは私も楽園へ参りましょう」
どこかウキウキした声で呟き、急いで服を脱ぎ始める。
だが。
自分だけはしっかりタオルを巻いた。
そして風呂場へ向かおうとしたその時。
足元に猫が現れる。
エンデだ。
ミラ(猫も風呂へ入るのでしょうか……?)
そう思った瞬間。
猫の姿が揺らいだ。
次の瞬間。
少女の姿へと変わる。
白い髪。
紫の瞳。
額には小さな角。
エンデ「ここの風呂は最高じゃ!私も行くぞ!」
人型になったエンデはそのまま風呂へ向かう。
ミラ「……あの、あなたは」
エンデ「なんじゃ?聞いておらんのか」
エンデは振り返りもせず言った。
エンデ「これが私の本来の姿じゃ。侍女ならそのくらい把握しておけ」
そう言い残して風呂へ向かう。
その背中を見送りながら。
ミラは呟いた。
ミラ「……ここは天国か?」
鼻血を垂らしながら。
ミラはその楽園へと歩いていった。
しずかとゆなは既に身体を洗っている。
ユリアナとエンデはどうやって洗えばいいのか試行錯誤していた。
そこへミラが近づく。
ミラ「ユリアナ様。私が身を清めます」
ユリアナ「ありがとう」
ミラは丁寧にユリアナの身体を洗い始めた。
しかし。
あまりにも念入りだ。
ユリアナ「今回は私達だけです。軽くで構いませんよ」
ミラ「いえ、作法としてきっちり清めます」
ミラ「それが大衆浴場の習わしですので」
ユリアナ「そう?あなたは真面目ね」
ユリアナは軽く笑う。
しかしミラはただ。
ユリアナの身体を堪能しているだけだった。
隅々まで洗い終えると。
ミラ「問題ありません」
と適当な言葉を告げた。
ユリアナはそのまま風呂へ入っていく。
次にミラの視線が向いたのはエンデだった。
エンデはよく分からない様子で身体を洗っている。
ミラ「それでは風呂に入る事はできません」
ミラ「私が身体を清めます」
エンデ「なんじゃと!?適当に洗えば良かろう!」
ミラ「座って下さい」
エンデ「もう風呂に入る!」
ミラはエンデを強引に座らせた。
そして。
身体を洗い始める。
エンデ「はぁ……融通が利かぬのう」
ミラは聞いていない。
エンデの身体をねっとりと手で洗う。
エンデ「おい!」
エンデ「なぜ手で洗うのだ!」
エンデ「そこのタオルを使っておるじゃろ!」
ミラ「エンデ様の肌は繊細です」
ミラ「手で洗うのが一番なのです」
エンデ「そうなのか?」
ミラ「はい」
エンデ「なら仕方ないの」
エンデは納得した。
そしてミラは。
その身体を堪能する。
エンデ「おい!尻を触るな!」
ミラ「隅まで洗っているだけです」
ミラ「これは一般的な洗い方ですので」
エンデ「そ、そうか?」
ミラはすぐにエンデの扱いを理解した。
適当な言葉で丸め込みながら。
その身体を堪能する。
エンデ「そこは必要ない!」
ミラ「問題ありません」
やがて。
満足したのか。
ミラ「それではお風呂へ入りましょう」
二人は風呂へ向かった。
先に湯へ浸かっていたユリアナは、しずかとゆなへ質問していた。
ユリアナ「ゆなとしずかの肌は本当に綺麗ですね」
ユリアナ「何かしているのですか?」
二人は顔を見合わせる。
ゆな「特に何もしてないです」
ゆな「ただ、たけるさんが色々考えて」
ゆな「しずかさんがそれを作ってくれているものを使っています」
ユリアナ「化粧水でしたか?」
ユリアナ「それとは別なのですか?」
しずか「うん」
しずか「髪と肌を綺麗にするもの」
ユリアナは少し目を細めた。
ユリアナ「……それは良さそうですね」
にこりと微笑む。
だが。
どこか圧がある。
ユリアナ「帰ったらたけるに言っておきなさい」
ユリアナ「城にも納品するように」
しずか「……わかった」
しずかは静かに頷いた。




