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王妃と侍女と、空の温泉旅行

急いでゼファーへの手紙を書くと、俺はそれをハヤブサのような鳥に預けた。


 灰色の羽を広げた鳥は、器用に手紙を爪で掴む。


「頼むぞ」


 声をかけると――


 バサッ。


 次の瞬間にはもう空へ舞い上がっていた。


 とんでもない速度で遠ざかっていく。


「……速いな」


 思わず呟く。


 あれならゼファーの家にもすぐ着くだろう。


 とはいえ、間に合うかどうかはまだ分からない。


 不安を残したまま、俺達は明日の準備を始めた。


 ユリアナの手紙には、もう一つの要望が書いてあった。


 ガラテアから聞いている、しずかが作る薬品。


 化粧水のようなものらしい。


 自分も使ってみたい、と。


「すぐ作れる?」


「……材料が足りない」


 というわけで俺は急いで街へ向かった。


 薬草や材料を買い込み、家に戻る。


 しずかが手際よく調合し、あっという間に完成した。


 そんなこんなで気づけばもう夜だ。


 鳥の返事も気になっていたのだが――


 ゆなが帰ってきたちょうどその時。


 バサッ。


 窓の外から羽音が聞こえた。


「あっ」


 鳥が戻ってきた。


 ゆなの肩へふわりと止まる。


「わっ!」


 ゆなは驚いたものの、すぐに笑顔になる。


「なんだか可愛いですね!」


 どうやらすぐ気に入ったらしい。


 俺は鳥の爪から手紙を受け取る。


 ゼファーからの返事だ。


 内容は簡潔だった。


 朝、この時間にあしんを到着させる。


 それだけ。


「間に合ったな」


 俺はほっと息を吐いた。


 夕食を食べながら、俺はゆなに説明する。


「明日、温泉地に行く事になった」


「温泉ですか?」


「ただし王妃を連れて日帰り」


 ゆなは少し驚いたものの、安心したようだった。


 王族絡みの大きな事件ではないと分かったからだろう。


 そして小さく呟く。


「……私も行きたいなぁ」


 以前なら王族と聞いただけで遠慮していた。


 だが一度ガラテアと温泉へ行った事で、少し慣れたらしい。


「聞いてみようか?」


「無理だと思いますけどね」


 ゆなは笑った。


 日帰りなので準備はすぐ終わる。


 ただ――


 朝が早い。


 あしんの到着時間もある。


 俺達は早めに眠る事にした。


 絶対に寝坊できない朝。


 俺はいつもより早く起きていた。


 朝食の準備をしながら、あしんを待つ。


 そろそろか。


 そう思って外へ出ると――


 空の向こうから黒い影が近づいてきた。


 巨大なカラス。


 あしんだ。


 ゆっくりと地面へ降り立つ。


 エンデも俺のそばに来ていた。


「頼む」


 そう言うと、エンデはあしんの前へ歩いていく。


 そして。


 しばらく無言で見つめ合った。


 どうやら意思疎通が終わったらしい。


 あしんは静かにその場で待機する。


 それからしずかとゆなも起きてきた。


 早めの朝食を済ませる。


 ちょうどその時。


 コンコン。


 玄関がノックされた。


 扉を開ける。


 そこに立っていたのは女性だった。


 二十代後半くらい。


 茶色い髪をきっちりまとめ、同じく茶色い瞳。


 眼鏡をかけ、姿勢がまっすぐだ。


 背は低くなく、どこか厳格な雰囲気を纏っている。


 王妃の侍女。


 ミラだ。


「準備はできているようですね」


 固い口調で言う。


「ユリアナ様がお待ちです。すぐ出発致しましょう」


 なぜか俺を見る目だけが妙に冷たい。


(……なんか嫌われてる?)


 まあいい。


 俺はしずかと協力して空の椅子を作る。


 風の魔法で椅子を形成。


 その上からしずかの結界が覆う。


 そしてあしんの首元に輪を取り付ける。


 そこへ――


 ユリアナがやってきた。


 相変わらずの気品ある笑顔だ。


「これが聞いていた空の移動手段ですね」


 興味深そうに眺める。


「思った以上にしっかりしていて安心しました。どのように乗るのです?」


 俺は簡単に説明する。


 するとユリアナは迷いなく乗り込んだ。


「これは……座り心地がいいですね」


 少し楽しそうだ。


 そこで俺は思い切って言う。


「あの、もし良ければ」


 ユリアナがこちらを見る。


「同居人のゆなも連れて行っていいですか?」


 一瞬、ユリアナはゆなを見る。


 そして微笑んだ。


「いいですよ」


 あっさりだった。


「多い方が楽しいでしょうから」


 ゆなの顔がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


 ゆなはミラに深く頭を下げた。


「宜しくお願いします!」


 その瞬間。


 ミラがにたりと笑った。


 少し気味の悪い笑み。


「こちらこそ宜しくお願いします」


 妙に優しい声。


 そしてゆなの手を取り、椅子へ案内する。


 その後、しずかも同じように丁寧にエスコートする。


 だが――


 俺だけ完全に無視された。


「……」


 ミラは席に座る。


 そして言う。


「何をしているんですか?早く乗って下さい」


 女性陣への態度と違いすぎる。


「……はい」


 俺は諦めて席に座る。


 エンデに合図を送る。


「出発するぞ」


 そして声をかけた。


「行きます!」


 その瞬間。


 あしんが力強く飛び立った。


 空の旅は快適だった。


 かなり速い。


 だが結界のおかげで風もない。


「すごい……!」


 ゆなが目を輝かせる。


 ユリアナも楽しそうだ。


「これは素晴らしい移動手段ですね」


 そして質問が飛ぶ。


「どういう発想で作ったのですか?」


「最大何人乗れます?」


「どれくらいの距離を飛べます?」


 次々に質問される。


 そんな会話をしているうちに――


 あっという間に到着した。


 温泉地。


 以前は数日かかった場所だ。


 それが三時間。


 全員が同じ事を思っていた。


(早すぎる)


 温泉のある場所へ直接降りる。


 広い空き地に着地。


 ミラが先に降りる。


 そして女性陣を丁寧にエスコートする。


 だがその視線が。


 妙にいやらしい。


 特にユリアナとゆなを見る目が。


(……気のせいか?)


 まあいい。


 日帰りだ。


 余計な時間はない。


「さあ」


 ユリアナが言う。


「温泉ですね」


 全員が少し楽しそうに歩き出した。


 こうして俺達は温泉へ向かった。

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