表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/160

静かな朝と、とんでもない質問

濃い一日を終えた俺は、ぐっすり眠っていたらしい。

 目を覚ますと、いつもよりかなり遅い時間だった。


 部屋の中には誰もいない。


 ぐっと身体を伸ばしながら、俺はキッチンへ向かう。


 すると――


「おはようございます!」


 元気な声が飛んできた。


 そこには、いつもの面々が揃っていた。


 ゆな、しずか、そして椅子の上で丸くなっているエンデ。


「おはよう」


 挨拶を返すと、ゆながぱっと笑顔になる。


「朝食作りましたよー!」


 テーブルには温かそうな料理が並んでいた。


 俺は椅子に座りながら、ふっと思う。


(……いつもの日常だな)


 昨日は色々ありすぎた。


 だからこそ、この空気に少し安心している自分がいた。


 ぼーっとしていると、ふと思い出す。


「あ」


 新しい同居人がいた。


 俺は立ち上がり、鳥籠の方へ向かう。


 ゼファーから預かったハヤブサのような鳥。

 灰色の羽に黄色いくちばし、鋭い瞳をした猛禽類だ。


 まだ餌をやっていないらしい。


 言われた通りの餌を手に取り、慎重に差し出す。


 猛禽類なんて世話した事ない。


 ちょっと緊張する。


 だが――


 ガブリ。


 勢いよく餌に食いついた。


 そのまま夢中で食べ始める。


(……いい食いっぷりだな)


 俺は動物が食事している姿を見るのが好きだ。


 猫でも犬でもそうだが、食べている姿は妙に見ていて楽しい。


 食べ終わる頃。


「できましたよー!」


 ゆなに呼ばれた。


「いい食べっぷりだったな」


 そう声をかけて、俺もテーブルへ戻る。


 こうして俺達の朝食が始まった。


 ゆなを見送り、家の中には三人だけが残る。


 俺、しずか、エンデ。


「さて……」


 いつ王城から呼ばれるか分からない。


 どうするかな、と考えていると――


 しずかが薬の調合を始めた。


 薬草を取り出し、すり鉢でゴリゴリと潰している。


 以前アスタナから頼まれているらしく、時間がある時にこうして作っているらしい。


 あまり見る機会がないので、俺は隣で観察する事にした。


 薬草を潰し、粉にする。


 そこに別の材料を混ぜる。


 そして最後に――


 手をかざす。


 淡い光が落ちた。


 どうやら回復魔法のようなものらしい。


「完成」


 しずかがぽつりと言った。


「これは何の薬?」


「熱がひく薬」


「へぇ……」


 俺は感心する。


「他にはどんな薬作れる?」


「……擦り傷に塗るもの。解毒の薬」


「解毒!?」


 思わず声が出た。


「毒魔法とかあるの!?」


「……?」


 しずかは首を傾げる。


「毒魔法は聞いた事ない。解毒の薬は、腐ったものや悪くなったものを食べてお腹が痛くなる。それを治す薬」


(あー……)


 正露丸みたいなものか。


 俺は勝手にポイズンとか想像していた。


 そんな会話をしながら時間が過ぎる。


 しずかは次々と薬を作っていく。


 あまりに簡単そうに作るので、ふと疑問が浮かぶ。


「これ、しずかがやる意味あるのか?」


「……普通はこんなに作れない」


「え?」


「一つ作るのに数日かかる」


「マジか」


 それが普通らしい。


 薬は貴重なものだと聞いた。


 こうして誰かの役に立つ事ができるのは、やっぱり凄い事なんだろう。


 俺は素直に感心した。


「……終わり」


 しずかが言った。


 俺は薬を箱に詰めるのを手伝う。


 ガラテアから預かっている箱だ。


 雑用を終えると、お茶を入れる。


 まったりした時間。


 しずかとの会話は少ない。


 でも、それが嫌なわけではない。


 むしろ。


 こうして無言でも気まずくならない時間が好きだった。


 何か仕事でもしたいが、今の状況では土木仕事なんて無理だ。


 何かできる事ないかな。


 そんな事を考えていると――


「……たける」


「どうした?」


 しずかが真顔で言った。


「えっちをするなら身体の相性が大事とはなに?」


「――ぶっ!」


 俺は思いきりお茶を噴き出した。


「……はっ!?どうした!?」


 しずかは照れた様子もない。


 ただ純粋な疑問の顔だ。


「言葉の意味が分からない」


 俺は頭を抱えた。


「えーと……まあ、その……」


 なんて説明すればいいんだ。


「言葉の通りだと思うぞ」


 とりあえずごまかす。


「答えになっていない」


 しずかはじっとこちらを見る。


「リリイとの会話で、たけるは知っているようなそぶりを見せていた。しっかり教えて欲しい」


 真剣だ。


 いや、真剣すぎる。


 男女二人でこの話をするのはどう考えてもおかしい。


 俺がはぐらかすたびに、しずかが近づいてくる。


「早く」


「いや待て」


「説明」


「だからだな――」


 その時。


 コンコン。


 玄関がノックされた。


(助かった……!)


 俺は真っ先に立ち上がった。


 玄関を開けると、そこにはローワンが立っていた。


 短く整えられた金髪に、程よく生えた顎髭。

 年齢は四十代ほどで、落ち着いた雰囲気の騎士だ。


 以前の男旅で一緒になった人物でもある。


「久しぶりだな」


「どうも」


 軽く日常会話を交わす。


 そしてローワンは二通の手紙を差し出した。


「女王ユリアナ様と、王カエサル様からだ」


「二通?」


「すぐ目を通しておけよ」


 なぜか含みのある言い方をする。


 嫌な予感しかしない。


 俺は椅子に座り、封を開ける。


 まずカエサルの手紙。


 内容は簡単だった。


 四日後に干ばつ地域へ向かう。

 準備をしておくように。


(少し余裕あるな)


 ほっとする。


 次にユリアナの手紙。


 封を開けた瞬間、嫌な予感が強くなる。


 内容を読んで――


 俺は顔をしかめた。


 そこにはこう書いてあった。


 夫カエサルには内密で。


 日帰りで構わないから温泉地へ連れて行ってほしい。


 そして最後に一行。


『明日の朝に出発しますので、この時間に準備を整えて待っているように』


 俺はゆっくり顔を上げる。


 しずかと目が合った。


「……またか」


 俺はすぐに紙を取り出した。


 そしてゼファーへの手紙を書き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ