ギャルの直球と、いつもの距離
突然のリリイの発言に、ゆなが慌てて声を上げた。
「何言っているんですか!? そんな事するわけないじゃないですか!」
顔を真っ赤にして必死に否定するゆなを見て、リリイは首をかしげる。
「そうなの? でもゆなってたけるの事好きだよね?」
「す、好きですけど!」
勢いよく言い返したゆなは、すぐに慌てて続ける。
「でも、そういう好きじゃないです! たけるさんは……兄っぽいというか、家族というか……そんな感じで好きなんです!」
「家族愛ってことね?」
「……そうです」
「りょ」
軽い。
あまりにも軽い返事に、ゆなは肩の力が抜けたようにため息を吐いた。
そんなやり取りをしていると、ちょうど風呂場の扉が開いた。
黒い長髪を濡らしたまま、しずかが出てくる。
華奢な身体に長い黒髪。赤い瞳が印象的な薄幸美人――だが、表情は相変わらず淡々としている。
「騒がしいけどどうしたの?」
ゆなが振り向く。
「リリイさんが変な質問するのでびっくりしちゃって」
「……そう。どんな事聞かれたの?」
ちらりとリリイを見る。
するとリリイは悪びれもなく答えた。
「一緒に住んでるんだから、えっちした?って聞いただけ」
そして当然のように続ける。
「しずかはたけるとえっちしたの?」
その瞬間。
しずかがぴたりと固まった。
驚いたのか、珍しく目を少し見開いている。
数秒の沈黙の後――
「……してない」
「はっ!?」
今度はリリイが驚いた。
「毎日一緒に寝てるんだよね?」
「うん」
「なんで?」
しずかは少しだけ考えてから答えた。
「……たけるの事は好き」
「でしょ?」
「だけど別に、そういう事をする必要はない」
「はぁ!?」
リリイは頭を抱える。
「意味わかんないんだけど!」
横で聞いていた俺は呆れていた。
(こいつら何の話してんだ……)
いい加減止めようと口を開く。
「お前ら――」
だが、その言葉をリリイが遮った。
「じゃあさ」
さらっと言う。
「私が今日たけるとするから邪魔しないでね」
「いや、なんでだよ!」
思わず声が出た。
「俺の意思関係なしか!?」
「相性は大事っしょ?」
「それはそうだけどそういう話じゃねー!」
完全にいつもの日常じゃない。
王城でも面倒だったのに、家でも面倒事は勘弁してほしい。
この話は終わりだと切り上げようとした――その時。
「それはダメ」
しずかが静かに言った。
珍しい。
しずかが自分から口を挟むなんて。
リリイが目を細める。
「なんで? ただの同居人でしょ?」
しずかは少し間を置いて言った。
「……たけるは私の」
どこかで聞いた台詞だなと思った。
アスタナも似た事を言っていた気がする。
俺は即座に突っ込む。
「いや違うが」
しずかは少し目を伏せた。
「……たけるがいないと、私は一人」
その言葉で、しずかの言いたい事は理解できた。
俺はゆっくり近づく。
「だよな」
そして軽く頭をかいた。
「ごめん。一人にはしないから安心しろ」
「……うん」
表情は相変わらず薄い。
だけど、どこか安心したように見えた。
こういう反応を見ると、やっぱりしずかも生きてるよなと思う。
「髪乾かすか?」
「……うん」
しずかはいつもの椅子に座った。
俺は風の魔法を使い、ゆっくりと髪を乾かしていく。
ようやく、いつもの日常だ。
……そう思った瞬間。
「いやもう彼女じゃん」
リリイが呆れたように言った。
俺は聞こえないふりをした。
しずかの髪を乾かし終えた頃、玄関の扉がノックされた。
出てみると、ゼファーが立っていた。
緑色の長い髪を腰近くまで伸ばした細身の男。金色の瞳が印象的な、どこか浮世離れした雰囲気の貴族だ。
「やあたけるくん。帰るから手伝ってもらえるかな?」
「いいですよ」
リリイは横から口を挟む。
「今日は泊まってけばいいじゃん」
だがゼファーは小袋を取り出した。
中には金貨。
どうやら王か王妃が渡したものらしい。
それを見るとリリイはあっさり言った。
「じゃ帰ろっか!」
現金なやつだ。
移動手段はいつもの四つ。
あしん。
しずかの結界。
俺の風魔法。
そしてエンデの指示。
便利ではあるが、この四つが揃わないと使えない。
(やっぱり別の方法も必要かもな)
そんな事を考えているうちに、ゼファーの家へ到着した。
もう遅い時間だ。
エンデがあしんと何やら視線を交わす。
どうやら、俺達を送った後に戻るよう伝えたらしい。
帰ろうとした時――
「少し待ってくれ」
ゼファーが家の中へ戻り、鳥籠を持ってきた。
「僕達が連絡を取れる手段があった方がいいだろう」
籠の中にいたのは一羽の鳥。
灰色の羽に黄色いくちばし。
鋭い目をした、ハヤブサのような鳥だった。
「彼女を預ける。手紙を持たせれば僕の元へ飛ぶ」
飛行速度が速く、非常に賢い鳥らしい。
餌の頻度や触り方など、細かい説明を受ける。
こうして連絡手段も確保された。
再びあしんに運ばれ、俺達は家へ戻る。
家の前で、あしんはエンデと目を合わせた。
まるで会話しているように。
そして大きな翼を広げ――夜空へ飛び去った。
俺は鳥籠を見下ろす。
「エンデ」
「この鳥食うなよ」
エンデは不満そうに尻尾を揺らした。
こうして。
長くて騒がしい一日は、ようやく終わった。




