ギャルの直球と静かな火花
何とかアスタナ達と別れられて、俺はようやく肩の力を抜いた。
正直なところ――
俺がこの城で一番苦手意識を持っている人物は、王でも姫でもない。
この人だ。
女王、ユリアナ。
白銀の長い髪を背に流し、年齢を感じさせない整った顔立ち。
いつも柔らかな笑顔を浮かべているが、その瞳の奥に何を考えているのかが全く見えない。
だからこそ、怖い。
そんな俺の内心など気にする様子もなく、ユリアナは軽い足取りで歩き、俺を自室へと案内した。
勧められるまま席に座り、出されたお茶を一口飲んだ瞬間――ユリアナが口を開いた。
「さて、馬車より快適で移動時間も短くなる乗り物を作ったそうですね」
にこり、と柔らかい笑顔。
だが。
(いや待て)
俺は王様にそんな説明してない。
快適とか一言も言ってない。
(情報源どこだよ!?)
内心で全力で突っ込みながら、俺は平静を装って答えた。
「……そうですね」
ユリアナは満足そうに頷いた。
「我が国の民が助けを求めています。一刻も早い救済が必要でしょう。あの人も、準備が整い次第一番に向かう場所になるでしょうね」
干ばつ地域の状況はかなり深刻らしい。
その言葉には、冗談の色はなかった。
「ですが――」
ユリアナはカップを静かに置く。
「今日明日で行ける事でもありません。私達が簡単に国を離れる事はできませんからね」
それはこの世界に来てから何度も聞いてきた話だ。
王族は自由に動けない。
国の象徴だからだ。
俺みたいな平民とは訳が違う。
「そうですよね」
俺が相槌を打つと、ユリアナは満足そうに頷いた。
そして――
「それはそれとして」
空気が変わった。
「たけるの乗り物なら、ガラテアと行った温泉の街まで――すぐ行けますよね?」
俺の思考が一瞬止まる。
「すぐ戻ればいいのです。私を連れて行って下さい」
(落差がすごい)
さっきまで国の話してたよな?
俺は言葉を選びながら答えた。
「……その、俺の一存では決められません」
「カルマイン男爵の長兄、ゼファーの協力なしでは移動できないからですよね?」
「はい」
するとユリアナはあっさり言った。
「それなら問題ありません」
にこり。
「彼には少し金銭を渡せば協力してくれますから」
(この人怖い!!)
俺は心の底からそう思った。
ゼファーの承諾が必要だと伝え、俺は城を後にした。
城に来るたびに思う。
(なんで毎回面倒ごと増えるんだ)
馬車で送ると言われたが、断った。
今日は歩きたい気分だった。
街をぶらつき、軽く酒を飲み、少しだけ気分を整えてから家へ帰る。
「ただいまー」
機嫌よく玄関を開けると、すぐ声が返ってきた。
「おかえり」
だが――
なんだろう。
妙に空気が張り詰めている。
リビングには、
黒髪の幽霊少女しずか、
元気な宿屋娘ゆな、
そして金髪サイドテールのギャルメイド、リリイがいた。
リリイは二十代前半。
金髪のサイドテールに、青と茶色のオッドアイ。
メイド服を着ているのに、どう見てもギャル。
「あれ?あいつは一緒じゃないの?」
「契約の話を終わらせて帰ってくるらしい」
「ふーん……」
納得してない顔だが、俺は気にせず風呂の準備を始めた。
手をかざし、魔法でお湯を生み出す。
すると――
じー……
リリイがガン見していた。
「面白いもんでもないだろ?」
「いや普通に面白いよ。魔法使える人周りにいないし」
さらに指差す。
「しかもお風呂沸かす為に魔法とかありえないし」
俺は肩をすくめた。
「便利だからな」
(ほんと便利なんだけどな)
その後、夕食の準備。
俺としずかが料理を始めると――
「手伝うよー」
リリイが言った。
だが。
「ホストがもてなすもの。来客者は座って待てばいい」
しずかが冷たく言った。
リリイはにこりと笑う。
「そういう事言うんだ?」
笑顔。
だけど。
空気がバチバチしてる気がする。
(なんだこの火花)
ゼファーが戻るかと思ったが戻らない。
ゆなも帰ってきたので、みんなで夕食を食べることにした。
「うまっ!」
リリイが声を上げた。
「やっぱたけるの料理神じゃん」
「いや褒めすぎだろ」
(よっしゃ)
内心ガッツポーズ。
そんな和やかな夕食を終え、片付けも終わる。
しずかは風呂へ。
ゆなは椅子でくつろいでいる。
するとリリイが聞いた。
「ねえ」
「たけると住んでどのくらいなの?」
ゆなが首を傾げる。
「どれくらいでしょう?結構経ちますよね?」
「だなー」
俺は笑った。
「あんまり長い気はしないけど、ずっと一緒にいる感じはする」
ゆなも笑う。
「わかります!楽しいですもんね!」
「だな」
すると。
リリイが何気ない顔で言った。
「ふーん」
そして。
「たけるとエッチはしたの?」
「――ぶっ!?」
俺とゆなは同時に咳き込んだ。




