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朝風呂と姫の笑顔はだいたい面倒の前触れ

家に戻り、いつものように「ただいまー」と声をかける。


ぱたぱたと足音がして、白い毛玉――エンデがしっぽを揺らしながら近寄ってきた。


だが、俺の隣にぴったりとくっついているしずかを見るなり、ぴたりと止まり、すっと逆方向へ歩いていく。


「……なんだ?」


しずかは何も言わない。ただ、いつもより少し距離が近い気がする。


まあいいか。


思ったより遅い時間だ。明日の朝早くに迎えが来るらしいし、さっさと風呂を沸かすか。


俺が風呂を沸かしている間に、しずかが台所に立つ。

戻ると、包丁の音が規則正しく響いていた。


「手伝う?」


「……もう少し」


しずかの料理は静かだ。無駄がない。


やがてゆなが帰ってきて、四人で夕食。

他愛ない話をして、いつもより少し早く布団に入った。


目が覚めたのは、まだ朝日が低い時間だった。


「……早いな」


でも悪くない。むしろ気分はいい。


せっかくだ。朝風呂でも入るか。


静かに湯を張り、一番風呂に浸かる。


「ああー……」


思わず声が漏れる。

朝風呂、いいな。なんで今までやらなかったんだ。


と、気配を感じて振り向くと、脱衣所の影にエンデがいた。


「入るか?」


返事はない。

ただ、じっと湯気を見つめている。


珍しいな。猫だし水は嫌いだと思ってたが。


ふと、しずかとの初対面を思い出す。

俺は魔法でお湯をすくい、ばしゃっとエンデにかけた。


「――!」


一瞬きょとんとした後、ぶるぶるっと体を振って湯を弾く。


「怒るなよ。温かいだろ?」


エンデはすたっと湯船の縁に乗ったが、中には入らない。


仕方ない。


風の荷台を作った時の応用で、猫サイズの桶をイメージする。


「ていっ」


湯の上に小さな桶が現れる。


エンデがぴょんと飛び乗った。


「お、いい感じじゃん」


そのままだと寂しいので、桶の中に少し湯を入れる。

エンデは丸くなり、目を細めた。


「……魔法ってなんだろうな。なんでもありじゃん。便利すぎるだろ」


返事はない。

でも、桶の中の白い毛玉は気持ちよさそうだ。


朝風呂、堪能。


風呂から上がり、エンデを拭いて抱きかかえて出ると、ゆなと鉢合わせた。


「おはよう。ゆなも朝風呂入る?」


「朝にお風呂ですか?夜入りましたし……」


まだ少し眠そうだ。


二人で居間に向かっていると、ゆなが急に声を上げた。


「えっ!? エンデちゃんとお風呂入ったんですか!?」


「うん?」


「エンデちゃんと……へぇ……」


妙な視線を向けられる。


猫だぞ?


その後起きてきたしずかに、ゆなが慌てて報告する。


「しずかさん! たけるさんがエンデちゃんと一緒に!」


しずかは一瞬だけ俺を見て、ぽつり。


「……えっち」


「は?」


猫だぞ?


納得はいかないが、朝風呂が気持ちよかったので深く考えないことにした。


朝の準備をしていると、ドアがノックされる。


開けると、そこには満面の笑みのアスタナ。


「たけるさん! おはようございます。お迎えに上がりましたよ」


笑顔。

だが、どこか圧がある。


「そうですか……」


俺としずかは馬車に乗り、城へ向かう。


道中、アスタナの言葉は止まらない。


「ガラテアお姉さまと温泉に行ったのですよね?」


「……まあ」


「一緒に宿にも泊まったのですよね?」


「……まあ」


「でしたら、私とも行くべきでは?」


にこにこしているが、目が笑っていない。


「それは……」


しずかに視線を送る。


しずかは窓の外を見たまま、完全に無視。


(前にガラテアの時、放置したもんな……)


あの時、面倒だからと見守った結果がこれだ。


(次に同じような状況になったら、ちゃんと助けるか……)


俺は心の中で静かに決意した。


アスタナの話はまだ続いている。


どうやら、今日も穏やかでは終わらないらしい。

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