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土産と嫉妬と、少しだけ近づく距離

ぶつぶつと空を見上げながら思案していたたけるは、ようやく視線を下ろした。


「……よし」


小さく頷く。


しずかが静かに問う。


「考えはまとまった?」


「うん? ああ、一応な。でも実現は難しそうだ。もう少しゆっくり詰めるよ」


「……そう」


そこへ、しずかは手紙の件を告げた。


明日の朝、城へ来いというアスタナからの呼び出し。


たけるは顔をしかめる。


「また城かぁ……」


げんなりと肩を落とすが、すぐに息を吐いた。


「まあ、しょうがないか」


受け入れは早い。


それが彼の良いところでもあり、少し鈍いところでもある。


「それよりさ、旅の土産渡しに行こうと思うんだけど、しずかはどうする?」


「……行く」


即答だった。


「そっか。じゃあ行こうか」


「うん」


決まった瞬間、しずかがすっと距離を詰める。


たけるは何も言わず、自然な手つきで彼女の黒髪を金色へと変える。


光が揺れ、色が変わる。


もはや朝の挨拶のように自然な動作だ。


(人間って慣れるもんだよな……)


最初は驚きと緊張があったはずなのに、今では当たり前の一工程。


適応力とは恐ろしい。


最初に向かったのは宿屋。


扉を開けると、いつものおばさんが顔を出した。


「あら、いらっしゃい! 旅はどうだった?」


「楽しかったですよ。これ、土産です」


袋を差し出す。


そして、気になっていた事を聞いた。


「ゆなの代わりの人、どうでした?」


おばさんはにやりと笑う。


「凄いよ。仕事は完璧、無駄口なし、愛想はないけどね」


「へえ」


「でもそれが逆に新鮮でね。あの冷たい感じがいいって客が増えたのさ」


たけるは思わず吹き出した。


「俺の料理は?」


「まあまあ好評だよ。あんた、なかなかやるね」


まあまあ……か。


その評価に、たけるの中の料理魂が静かに燃え上がる。


(次はもっと驚かせてやる)


次はアブソルの店。


扉を開けた瞬間、違和感に気づく。


「……綺麗だな」


以前のごちゃごちゃした空間はなく、整然と並ぶ道具。


「すみませーん」


奥から現れたのは、二十代後半くらいの茶髪の女性だった。


穏やかな顔立ち。だが目は強い。


「店主は城に行っております」


事情を聞くと、彼女はこう語った。


ごちゃごちゃした店内に衝撃を受け、

「片付けさせてください!」と直談判(じかだんぱん)


そのまま従業員になったらしい。


「見た目と行動が一致してないな……」


店を出た後、たけるは感心したように言った。


「あの女の人すげーな」


横で黙って聞いていたしずかが、ぽつり。


「ああいう女性が好み?」


「え?」


思わず足が止まる。


「いや、そういう事じゃないって。純粋に行動力すごいなって話」


しずかはじっと見上げる。


「たけるが一人の女性の事をそこまで話すのは珍しい」


ジト目。


あ、これまずいかもしれない。


たけるの脳内で、過去に聞いたデート中に他の女性を褒めて機嫌を損ねる話がよぎる。


(あれ、今それ?)


少しだけ反省し、声のトーンを整える。


「今はしずかと二人で出かけてるだろ? 他の女の人の事なんて考えてないよ」


棒読みにならないように気をつける。


しずかは一瞬だけ目を伏せ、


「……そう」


そして、肩が触れるほど距離を詰めてきた。


機嫌は直ったらしい。


(よし、次から気をつけよう)


心に刻みつつ、最後の目的地へ向かう。


土木工事の現場。


汗の匂い、土の匂い、いつもの景色。


「おー、たける!」


作業員たちが手を振る。


「土産持ってきましたー」


袋を渡すと、歓声が上がる。


「お前、旅行っても律儀だな」


「お世話になってますからね」


笑い合う。


しずかは少し後ろで静かに見守っている。


作業員の一人がぽつり。


「なんか雰囲気変わったな、お前」


「え?」


「前より、ちょっとだけ男の顔になったな」


たけるは首をかしげる。


「そう……ですか?ありがとうございます」


だが、しずかは横で小さく頷いた。


旅、戦い、城。


少しずつ何かが積み重なっている。


たけるは気づいていない。


けれど、周りは気づき始めている。


夕陽が差し込む中、土埃(つちぼこり)の舞う現場を後にする。


肩が触れ合う距離で歩きながら、


しずかはふと呟いた。


「……たける」


「ん?」


「さっきの言葉、忘れないで」


「どれ?」


「……忘れていい」


そう言いながら、ほんの少しだけ口元が緩んだ。


明日は城。


また騒がしくなる。


だが今は、


二人並んで歩くこの帰り道が、


どこか温かく、特別な時間だった。

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