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風の荷台と、再び開いた光の扉

馬車の中に隠れていたゆなは、外の光景を見て言葉を失っていた。


「えーっ!?あれが……魔法の戦いなんですか!?」


目を丸くしながら、たけるとガラテアを見る。


「たけるさんもなんだかすごいですし……貴族の人達って、いつもああやって私達を守っていたんですね……」


その声には純粋な尊敬がこもっている。


確かに、目の前で起きたことは現実だ。


雷、炎、結界。


だがそれは、本来普通ではない。


けれどゆなは、それをそのまま受け止めた。


少しだけ、誤解を含んだまま。


ワイバーンは、緑の正方形の結界に閉じ込められている。


「私が解かない限り、破られることはない」


しずかの静かな言葉に、ようやく全員が安堵の息を吐いた。


だが、問題は残る。


「……これを運ぶのは骨が折れますわね」


ガラテアがワイバーンを見上げる。


巨体。


普通の馬車では到底無理だ。


そのとき。


「これ、運べるか試してもいい?」


たけるが軽く言った。


「……はい?」


ガラテアが怪訝な目を向ける。


「前に覚えた魔法の応用。」


「……できるのですか?」


「やってみる」


たけるは深呼吸する。


風。


形。


板。


荷台。


しずかの結界ごと乗せられる大きさ。


「ていっ」


ぶわっ。


緑の結界の下に、透明な風の台が広がる。


まるで空気が固まったような板。


ワイバーンの巨体が、ふわりと持ち上がる。


「おおっ!」


たけるは素直に感嘆する。


だが周囲は。


「はぁ!?」


すっとんきょうな声が重なる。


たけるは風の紐をイメージし、引っ張ってみる。


すいっ。


軽い。


信じられないほど軽い。


「すげぇ、楽しい」


くいくいと遊ぶように引く。


「これなら簡単に運べるぞ!」


自信満々で振り向く。


だが。


ガラテアは額に手を当てていた。


「……まあ、運べそうですね」


モルダも腕を組んでうなずく。


「そうだな」


(反応、薄くない?)


護衛たちが実際に引けるか確認し始める。


納得がいかない。


たけるはしずかの隣へ。


「俺、役に立ってるよな?」


「……うん」


「だよなぁ。もう少しいい反応あってもいいと思うんだけど」


しずかは少しだけ視線を上げた。


「役には立っている。でも、それ以上に驚きが大きい。まともな反応が取れない」


「……そうなの?」


「……たけるは、自分が普通だと思いすぎ」


「え?」


「……なんでもない」


たけるはよく分からないまま、考えるのをやめた。


慎重にワイバーンを引きながら街へ向かう。


道中、モルダがたけるとしずかを何度も見ていた。


その視線は、警戒と評価の混じったものだった。


やがて街が見えてくる。


先に城へ向かった護衛も戻ってきた。


「街の入口手前で、護衛団と研究者が待機しています」


「やっと終わりか……」


たけるは肩を回す。


街の少し手前で馬車が止まり、全員が降りる。


遠くに集団が見える。


ガラテアが護衛と研究者へ事情を説明し始める。


その間。


モルダが一人、ワイバーンの方へ歩いていった。


「何してるんだ?」


たけるは遠目に見守る。


その瞬間。


ワイバーンの前方に――


光。


縦に裂けるような光。


「……なんだ、あれ」


扉のような、揺らぐ光。


ぐぐっ、と空間が歪む。


「まさか……!」


モルダの声。


光の扉が、ゆっくりと動き出す。


そして。


ワイバーンを、飲み込み始めた。


「えっ!?」


周囲も気づく。


結界ごと、引きずり込まれていく。


「しずか!」


「……無理。あれは干渉できない」


モルダも後退する。


だが。


光は吸い込むように、彼女を引き寄せる。


「またか!?なぜ私ばかり!」


足が地面を削る。


それでも引きずられる。


「姫様!!」


エンデが猫の姿のまま飛び出す。


「必ずまたこの場所へ参ります!!」


最後にそう叫び。


ワイバーンと共に、モルダは光へ消えた。


ぱんっ。


音もなく、光は閉じる。


静寂。


風だけが吹く。


誰も、すぐには声を出せなかった。

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