湯けむりの再会と、魔族の姫様発覚!?
機嫌を取り戻したしずかと三人で朝食を終える。
今日は何時頃に向かうのだろう、と話していると、階段を優雅に降りてくる足音が聞こえた。
「おはようございます」
ガラテアだ。
「おはようございます」
「……おはよう」
挨拶を交わすと、ガラテアは自然な流れでしずかの隣へ座り、朝食を取り始めた。
優雅。
とにかく優雅。
パンのちぎり方一つとっても気品がある。
俺とゆなは、石像のように二人の様子を眺めながら茶をすすった。
(入りづらい……)
会話のテンポも空気も、完全に二人の世界だ。
俺たちはただ、静かに存在している。
やがて食事を終えたガラテアが、ようやくこちらへ視線を向けた。
「少し、わたくしは用事がありますので」
やっと振られた。
「昼食が終わった辺りで、この宿の前で合流しましょう。その間は好きにしてもらって構いません」
命令口調だが、内容は自由。
「馬車ではなく歩きになりますので、動きやすい格好をお勧めしますわ」
「はい」
「わかりました」
俺とゆなは表情を消して頷いた。
偉そうだが、まあありがたい。
三人で軽く街を散策する。
温泉街らしく、硫黄の匂いがほんのり漂う。
変わった串焼きや、蒸した野菜の軽食を食べ歩きし、昼を軽く済ませる。
「これ、美味しいです!」
「……塩気が強い」
「温泉効果かもな」
なんだかんだ楽しい。
時間になり、宿へ戻るとガラテアが待っていた。
「それでは行きましょうか」
その一言で、再び隊列が整う。
目的地までは歩き。
緩やかながらも確実に上る坂道。
舗装はされていない。
硫黄の匂いが強くなる。
「……結構、きついですね」
ゆなが息を吐く。
「あとどれくらいだ?」
「もう少しですわ」
ガラテアが前を向いたまま答える。
一時間以上歩いた頃、ようやく視界が開けた。
そして――
「……おお」
目の前に広がったのは、湯けむりの立ち上る温泉地。
小さめの宿の建物。
その奥には、白い蒸気があちこちから上がっている。
「ふわーっ!凄いですね!」
「……匂いは凄いけど、新鮮」
「ここのお風呂に入れば、心も体もすっきりしますわよ」
「歩いてきた甲斐があったな」
テンションが一気に上がる。
俺たちはその宿へと足を踏み入れた。
中は想像以上にしっかりしていた。
ちゃんと男湯と女湯に分かれている。
「今は人も少なくて、ほとんど貸し切りのようなものですよ」
従業員が言う。
「泊まっているのは女性お一人だけで」
(よし、男湯貸し切りだな)
テンションがさらに上がる。
タオルを借り、通路で女性陣と別れる。
「また後でな」
「はい!」
「……あとで」
ガラテアが振り返り、
「護衛の方々も楽しんでよろしいですわよ」
その一言で、護衛も一斉に風呂へ。
服を脱ぎ、湯気の中へ入る。
「ああ……やっと解放されたな」
一人の護衛が肩を回す。
「気が抜けないのは辛いですね」
「次に気が抜けるのはいつかわからん」
俺を見る。
「たける殿も今だけは気楽にしろ」
「……ありがたい」
湯に浸かると、体の疲れが溶けていく。
裸の付き合いというのは、不思議と距離が縮まる。
聞けば、今回の旅は急遽決まったらしい。
「本来はローワン達が行く予定だったがな」
「急な変更で我らになった」
「ローワンから“男だけの旅は楽しかった”と聞いていたのでな」
全員がにやりと笑う。
「女がいない状況になったら、たける殿と語ろうと思っていた」
「……それは楽しみだな」
笑いが湯気に混じる。
こうして男湯は、予想外に楽しい時間になった。
一方その頃、女湯の脱衣所。
猫の姿から人型へ変わったエンデを見て、ガラテアが固まった。
「な、な、なんですの!?」
「なんじゃ?一国の姫ならばこの程度で騒ぐでない」
エンデは腕を組む。
しずかが淡々と説明する。
「……いつもこう」
「……」
ガラテアは何か言いかけ、ぐっと飲み込んだ。
「……あとで詳しく聞きますわ」
エンデは我先にと湯へ駆ける。
「一番乗りじゃ!」
だが、湯気の奥に影があった。
エンデが目を凝らす。
次の瞬間――
「ややっ!?姫様!?」
湯の中から一人の女性が勢いよく立ち上がった。
ばしゃばしゃと湯をかき分け、エンデへ近づく。
「やはりこの世界におられたのですね!」
エンデの目が見開かれる。
「……おぬしは」
ガラテアとしずかが顔を見合わせる。
湯けむりの中で始まる、予想外の再会。
温泉地で、まさかの――
魔族側の人物との邂逅だった。




