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王命即出発!?俺の知らぬ間に旅が決定していた件

料理は、どうやらかなり満足してもらえたらしい。


 俺の原案とはいえ、完成形はほぼ城の料理人たちの力だ。次元が違う仕上がりだったのは間違いない。


 食後、茶を飲みながら王カエサルがゆっくりと口を開いた。


「それで――少女の休みを取るためにメニューを考案した、という話だったな」


 威圧感はあるが、先ほどまでより声は柔らかい。


「はい」


 正直に答えると、カエサルは少し顎に手を当てて考え込んだ。


「……こちらでその少女の代わりを向かわせよう」


「え?」


「遠出するための休みについては心配いらん。こちらで手配する」


 一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。


 ゆなの休み問題――解決?


 安堵が胸に広がる。


「ありがとうございます」


 素直に頭を下げると、カエサルは続けた。


「それで、どこに行こうとしているのだ?」


「えーと……魔力の通りがいい場所、らしいです」


 しずかたちから聞いた曖昧な情報をそのまま伝える。


 するとカエサルの目がわずかに細まった。


「……あの場所かもしれんな」


 ユリアナも頷く。


「あそこは確かに、魔力の流れが澄んでいると聞きますわ」


 ガラテアが地図を広げ、指で場所を示した。


「ここから数日かかりますが、道は整っております」


 数日。


 結構遠いな。


 だが、道順はわかりやすく、簡単な地図も書いて渡してくれた。


「いつ行くのだ?」


 カエサルの問いに、俺は正直に答えた。


「まだ決めていません」


「ならばすぐに決めよ。少女の休みはすぐ取れるようにする。さっさと行け」


 ……命令形。


 本当に王族って勝手だな。


 だが俺は反論しなかった。


「……数日中には」


「うむ」


 それで話はまとまった。


 意外だったのは、アスタナが何も言わなかったことだ。


 いつもなら「私も行きます!」と言いそうなのに、今日はじっと俺たちの会話を聞いているだけだった。


(流石に王の前では自重か?)


 そう勝手に納得し、俺は城を後にした。


 帰宅すると、三人が出迎えてくれた。


 ゆなは駆け寄り、しずかは静かに立ち、エンデは猫の姿で足元をくるくる回る。


 それだけで、疲れが少しだけ軽くなる。


「ただいま」


「おかえりなさい!」


「……おかえり」


 城でのあれこれを説明する。


 料理の正式採用。


 そして――


「ゆな、長期の休みが取れる」


「えっ!?いいんですか!?」


 ゆなの目がぱっと輝く。


「決まったことだしな。多分大丈夫だ」


「やったー!!」


 飛び跳ねるゆな。


 代わりに誰が来るのかは分からないが、今は深く考えないことにした。


 そして、教えてもらった魔力の通りがいい場所を伝える。


 だが。


「……知らない」


「聞いたことないです」


 誰も知らない。


 ただ、数日かかるということだけは理解したらしく、女性陣はすぐに別の話題へ移った。


「着替えはどのくらい必要でしょうか?」


「下着も多めにいる」


「寒さ対策も必要です!」


 話は一気に具体的になる。


 俺はその様子を横目に、風呂へ向かった。


 旅の勝手はある程度分かっている。


 女性陣の盛り上がりに口を挟む気力はなかった。


 風呂に入り、自分の準備だけ済ませて、俺はさっさと寝た。


 翌朝。


 いや、もう昼近いかもしれない。


 目が覚めると、しずかとエンデがいない。


「寝すぎたか……」


 欠伸(あくび)をしながらキッチンへ向かうと――


 そこには、真剣な顔で話し合う女性陣の姿があった。


「これで準備はできたと思います!忘れ物ないですか?」


「……足りると思う」


 テーブルには、綺麗にまとめられた荷物。


 え、何これ。


「おはよう。張り切ってるなー」


 軽く声をかける。


 だが、返ってきたのは予想外の勢いだった。


「たけるさん!もう準備終わってますか!?私たちはばっちりです!」


「……すぐ行ける」


 行ける?


 俺は(まばた)きをした。


「まだ行く日も決まってないだろ。まずは日程決めてからだ」


 冷静に言ったつもりだった。


 だが。


「えっ!?今日行くんですよね?」


「行く」


 二人の声が綺麗に重なった。


「はぁ!?」


 俺は素で声を上げた。


「そんなすぐ行けるわけないだろ!準備もあるし、ゆなの休みだって――」


「もう休みは貰ってます!」


 ゆなが胸を張る。


「ここで行かないと、次いつ取れるかわかりません!」


「……城から手配された馬車も外で待っている」


 しずかがさらっと爆弾を落とした。


「は?」


 俺は玄関の方を見た。


 確かに、外から馬のいななきが聞こえる。


「今日なの!?」


「今日」


「今すぐ」


 俺が知らない間に、全部決まっていたらしい。


 俺は頭を抱えた。


(王族……仕事が早すぎる……)


 だが、ここで止める理由もない。


 俺は急いで身支度を整えた。


 荷物をまとめ、剣を確認し、戸締まりを確認する。


 気づけば、全員が玄関に並んでいた。


 ゆなは期待で顔を輝かせ、


 しずかは静かに目を細め、


 エンデは猫の姿で俺の肩に飛び乗った。


「……本当に行くんだな」


「はい!」


「……行く」


 俺はため息をつきながらも、少しだけ笑った。


「じゃあ、行くか」


 こうして――


 俺の心の準備が追いつかないまま、


 俺たちの旅は、あっという間に始まってしまった。

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