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王様まで甘党だった件。俺のシフォンケーキが国家案件になりました

俺の意思とは関係なく、事態はどんどん進んでいく。


 ユリアナが上品に手を合わせ、にこりと微笑んだ。


「それでは……いただきましょうか」


 その一言で、俺の作ったベリー付きシフォンケーキが王族に食べられる時間が始まった。


 ユリアナとガラテアは、いかにも育ちの良さが滲み出る所作でフォークを持ち、一口だけ口に運ぶ。


 表情は変わらない。


 だが――目が少しだけ細くなった。


(……今のは、うまい時の顔だな)


 俺は確信した。


 そんな中。


 隣に座っているアスタナが、妙にそわそわしながら俺を見上げてくる。


 そして、甘えるような声で言った。


「たけるさん。少し手が痺れていて……自分では食べられないのです。食べさせてくれますか?」


「……は?」


 俺は思わず声が漏れた。


 手が痺れてる?


 さっきまで普通に動かしてただろ。


 俺が少し距離を取ろうとした時、両手でがっしり掴まれたのを俺は忘れていない。


 痺れてる手で掴んでたのか?


 ……器用すぎる。


 俺が何か言いかけた瞬間、アスタナがずいっと顔を近づけてきた。


 圧がすごい。


 笑顔なのに、逃げ道がない。


「私は手が痺れて食べられないのです。食べさせて貰えますね?」


 これは、拒否できないやつだ。


 俺は諦めた。


「……はい」


 俺は表情を無にし、フォークでシフォンケーキを一口大に切り取る。


 そして、アスタナの口元へ運んだ。


 アスタナは頬をほんのり赤くしながら、恥ずかしそうに口を開く。


「あーん……」


(恥ずかしいならやるなよ……)


 心の中でツッコミながら、俺はそのまま口へ入れた。


 アスタナはもぐもぐと噛みしめる。


 そして――


 ぱっと顔が明るくなった。


「美味しいです!」


 目がキラキラしている。


「今まで食べた甘い物の中で、一番です!」


「そ、そうですか……」


 嬉しい。


 嬉しいんだが。


 俺は今、王女にケーキを食べさせている。


 意味が分からない。


 だがアスタナは満面の笑顔で、すぐにまた口を開いた。


「あーん」


 俺は機械になった。


 フォークで切る。


 運ぶ。


 食べさせる。


 切る。


 運ぶ。


 食べさせる。


 ――気づけば皿のケーキが秒で消えた。


 アスタナは満足そうに息を吐き、嬉しそうに笑った。


「幸せです……」


「……よかったですね」


 俺は乾いた声で返す。


 そして、ようやく終わったと思い、ユリアナとガラテアの皿をちらりと見た。


 ……そっちも、もう空だった。


(よし、これは成功だな)


 安堵した瞬間。


 ユリアナが上品に微笑みながら言った。


「もう少し食べてみないと、味が分からないわね」


 ……え?


 味、もう分かってるだろ。


 ガラテアも頷く。


「お母様の言う通りですわ。判断するのは早計でしょう。もう少し食べて検討してみましょう」


 検討?


 それただ食べたいだけだろ。


 アスタナも当然のように頷いた。


「そうですね。検討は必要です」


(お前はさっき全部食べたじゃねぇか)


 俺が心の中で叫んだ時、クレアが無言でため息を吐いた。


 そして淡々と動こうとする。


 だが――その瞬間。


 扉が勢いよく開いた。


 空気が変わる。


 そこに立っていたのは、王――カエサルだった。


 不機嫌そうな顔で、目が鋭い。


 部屋の空気が一気に重くなる。


「お父様!?」


「あなた、どうしましたの?」


 ガラテアとアスタナが声を上げるが、カエサルは無視した。


 そしてドカっとユリアナの隣に座り込む。


 椅子が少し鳴った。


 カエサルは腕を組み、低い声で言った。


「ローワンから聞いた。たけるが作ったデザートがあるらしいな」


 目が俺に向く。


 圧がすごい。


「わしに断りもなく食べるとは、どういうことだ?」


 威圧感がある。


 いい王様だと思っていたが、今のカエサルは普通に怖い。


 娘二人は「すみません」と素直に頭を下げた。


 だがユリアナは、まったく表情を崩さない。


 優雅に微笑み、穏やかに言った。


「うっかりしていましたわ。あなたも一緒にいただきましょう?」


 そして、さらっと追い打ちをかける。


「美味しかったですよ」


 カエサルはその言葉に、眉をぴくりと動かした。


 興味が出た顔だ。


 そして、少しだけ咳払いをして言った。


「……クレア。わしの分も用意せよ」


 クレアは一瞬だけ嫌そうな顔をした。


 多分、内心こう思っている。


(私の分がなくなる……)


 だが、すぐに表情を消し、頭を下げた。


「承知しました」


 そう言って部屋を出ていく。


 その姿は、完全に犠牲者だった。


 しばらくして、カエサルの前にもシフォンケーキが置かれた。


 カエサルはフォークを持ち、慎重に一口食べる。


 もぐ。


 もぐ。


 ……沈黙。


 俺は息を止めた。


 ユリアナたちもじっと見ている。


 そしてカエサルは、ゆっくりと口を開いた。


「……このような味は、城の料理人にも出せん」


 その言葉に、俺は心の中でガッツポーズした。


 カエサルは続ける。


「作り方を料理長に教えてもらえるか?」


 真面目な顔だ。


 国の王が、ケーキの作り方を聞いている。


 何なんだこの世界。


 だが俺は、正直に答えた。


「……すみません。それは難しいです」


「なぜだ?」


 カエサルの目が鋭くなる。


 俺は少し迷ったが、誤魔化すのは危険だと思った。


「卵を安全にするために、しずかの浄化魔法を使ってます。俺一人じゃ作れません」


 その瞬間、ユリアナがふっと微笑んだ。


「なるほど……そういうことなのね」


 ガラテアも納得したように頷く。


 アスタナは不満そうだ。


「しずかさん……ずるいです」


 カエサルは少し考え込むように黙った。


 そして、結論を出す。


「……ならば、また作れ」


 当然のように言う。


「金は出そう」


 さらっと付け足す。


 俺は一瞬、耳を疑った。


(え、金出るの?)


 ユリアナがにこりと笑った。


「たけるさん。あなた、また新しい仕事が増えましたね」


 ガラテアも頷く。


「献上用の甘味職人……ですわね」


 アスタナは嬉しそうに俺の腕に抱きついた。


「つまり、これからも食べられるのですね!」


 カエサルが咳払いをする。


「……娘よ、少し離れよ」


「はい♪」


 離れない。


 俺は遠い目になった。


(……俺の資金源、ケーキになったわ)


 こうして俺は、魔石採取に続き――


 王族御用達の甘味係という、意味不明な立場を手に入れたのだった。

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