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行き先未定の旅計画と、下着という地雷

夕食を食べながら、自然と話題は「どこへ行くか」に移っていった。


 たけるはスープを飲みながら、首を傾げる。


「で、どこがいいんだろうな。最近は外に出る事も多いけど……行けそうな場所って思い浮かばん」


 ゆなも箸を止め、うーんと唸る。


「私も街の外に出る事ないので、よくわからないです」


 考えてみれば、ここにいるのは異世界から来た男と、平民の娘と、まともに外出した事のない幽霊だ。


 旅先の候補が出ないのも当然だった。


 そんな中、しずかが淡々と口を開く。


「魔力の流れが綺麗な場所があるそうだから、私はそこに行ってみたい」


「魔力の流れが綺麗な場所……?」


 たけるは完全に想像できず、困ったように笑った。


「全く想像つかない。そこってどの辺にある?」


「……知らない」


「知らないのかよ」


 思わず突っ込むと、しずかは続ける。


「エンデが行きたいって言ってたから」


 その言葉で、テーブルの空気が止まった。


 視線が一斉に、猫の姿で小さい肉を食べているエンデへ向く。


 エンデは何も気にせず、もぐもぐと食べている。


 たけるは眉をひそめた。


「エンデが言ってたのか?」


 しずかは頷く。


「……うん」


 ゆなも頷いた。


「そういえば、エンデちゃんがそんな事言ってましたね」


「……そうなのか?」


 たけるは困惑した。


 そもそも、エンデは今ただの猫にしか見えない。


 それが旅先の候補を語るという時点で、意味が分からない。


 たけるは箸を置き、猫のエンデに問いかけた。


「エンデ。それってどこにある?」


「……」


 当然のように返事はない。


 エンデは小さい肉を咥え、尻尾を揺らすだけだった。


 たけるは深く息を吐いた。


「……だよな」


 そしてあっさり諦める。


「今度エンデに聞いておいてくれ」


「……わかった」


 しずかが短く答える。


 結局、旅の行き先は保留になった。


 まずは街の人間に話を聞く。


 それが現実的な結論だった。


 少し話題を変えるように、たけるがゆなを見る。


「場所はこれから考えるとして……ゆなは休み取れるのか?どこかに行くなら日にちがかかるぞ」


 その言葉に、ゆながハッとした顔をした。


「あっ……!」


 そしてすぐに、しょんぼりする。


「今は忙しいから……お休み取れても二日くらいだと思います」


「二日だと厳しそうだな」


「うぅ……」


 ゆながしゅんと垂れる。


 たけるは苦笑して頭を掻いた。


「まあ、今日明日で行けるもんでもないしな。行先を聞くついでに、ゆなの休みの件も考えてみよう」


 ゆなの顔がぱっと明るくなる。


「はい!!」


 元気になったり落ち込んだり。


 ゆなの感情の上下で、家の空気が明るくなるのが分かる。


「お城の人が護衛でついてきたら嫌ですねー!」


「それは嫌だな」


「でも旅なら安全も大事ですよね?」


「……そうなんだよなぁ」


 そんな、まだ何も決まっていない旅の予定を、まるで決まったかのように話し合う。


 それだけで妙に楽しくて。


 気付けばいい時間になり、三人と一匹は眠りについた。


 翌朝。


 たけるが目を覚ますと、エンデが近くで丸くなって寝ていた。


 そして、しずかが起きていた。


 だが、前とは違う。


 視線の質が、違う気がする。


 何かを言いたいような。


 何かを確かめたいような。


「おはよう」


「……おはよう」


 短い挨拶を交わし、二人でキッチンへ向かう。


 湯を沸かし、お茶を飲む。


 会話はない。


 ただ、妙に落ち着く沈黙が流れていた。


 朝食を作ろうとしたところで、ゆなが起きてきて。


 エンデも伸びをして起きて。


 いつもの朝が始まった。


 ゆなを見送った後、たけるはふと思い出した。


 魔石採取の報奨金。


 あれを早めに持ってくると言っていた。


 つまり、今日か明日には護衛の誰かが来る可能性が高い。


「多分今日か明日、護衛の人が来ると思うから家にいるよ」


「……そう」


「早めに来て時間が空いたら、一緒に買い出しでも行く?」


 しずかは少し考え――


「……行く」


 短く答えた。


 たけるは少し笑う。


「よし。じゃあ買う物、考えとくか」


 二人で紙を出し、必要な物を思い浮かべていく。


 調味料、野菜、肉、果物、保存できるもの。


 話していると、しずかがふと口を開いた。


「……そういえばアスタナに下着を貰った。これは返すべき?」


「……下着?」


 たけるの思考が一瞬止まった。


「えっと……貰ったなら貰っといていいんじゃない?」


「……わかった」


 しずかはあっさり納得する。


 だが、たけるは少し気になった。


 下着を貰うって、どういう状況だ?


 そんな会話、普通はしない。


「……ちなみに、なんで貰ったんだ?」


 しずかは少し間を置いて答えた。


「平民の下着は布。貴族はちゃんとした下着をつける。アスタナが許せなかったみたい」


「なるほど……」


 つまり、文化の違いと価値観の押し付けだ。


 たけるは納得しつつ、苦笑した。


「じゃあ下着もついでに買っておく?足りないなら買った方がいいだろ」


 すると。


 しずかが、すっと目を細めた。


「……たけるのえっち」


「ぶっ……!」


 たけるは吹き出した。


「なんだよそれ!」


 しずかは表情がない。


 だが、どこか勝ち誇っているように見えた。


 たけるは笑いながら降参する。


「はいはい。下着関連はゆなと行ってくれ」


「うん」


 それで話は終わった――はずだった。


 その時。


 ぺしっ。


 たけるの足に、何かが当たった。


 見下ろすと、エンデが尻尾で叩いている。


 しかも露骨に不機嫌そうだ。


「……なんだお前」


 たけるが苦笑すると、エンデはぷいっと顔を背けた。


 まるで言いたげに。


 「二人で楽しそうにするな」とでも言うように。


 しずかはそれを見て、小さく呟いた。


「……面倒くさい猫」


 エンデの尻尾が、さらに強く振られた。

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