だらだら女子会と、爆弾発言
ゆなとしずかが作った朝食を食べ終えた。
……味は普通だった。
たけるの料理ほどではないが、失敗作みたいな地獄ではない。
ただ、それだけで今日は勝ちだ。
だが。
勝ったからといって、動けるわけではない。
食器は洗わず、ひとまず水に浸しただけ。
そのまま三人はテーブルに突っ伏して、だらだらとした時間を迎えた。
会話もない。
ただ、ぼやーっとした空気だけが部屋に漂う。
窓の外からは、のどかな風の音。
鳥の鳴き声。
平和すぎるほどの昼前。
そんな中で、ゆながぽつりと口を開いた。
「……そういえば、エンデちゃんって何歳なんですか?」
突っ伏したまま、顔だけ横に向ける。
エンデは腕を組み、偉そうに椅子にもたれていたが――目が半分閉じている。
完全に眠い顔だ。
「うん? 数は数えておらんが……今は百は超えておるな」
「へぇー……」
ゆなは少し考え、すっと真顔で言った。
「じゃあ、エンデちゃんっておばあちゃんなんですね」
その瞬間。
空気がピキッと凍った。
「……なんだと?」
エンデの目が開いた。
ゆなは悪気なく続ける。
「えっ、だって百歳まで生きる人なんてそうそういないですし、普通におばあちゃんですよ?」
しずかは突っ伏したまま、ぼそっと言う。
「……おばあちゃん」
「違う!!」
エンデは机を叩きそうな勢いで声を上げた。
「私はおばあちゃんではない!私は麗しい乙女だ!!」
ゆなは、眠そうな顔のまま首を傾げた。
「あれ?エンデちゃんって淑女なんじゃないですか?」
「……っ!」
エンデは一瞬固まった。
そして、苦し紛れに胸を張る。
「そ、それは……淑女であり……心は乙女なのだ!」
「なるほどー」
ゆなはふわっと笑う。
しずかは顔を上げ、無表情でエンデを見た。
「……淑女?」
その視線が冷たい。
だがエンデは気づかないふりをして、ふんっと鼻を鳴らした。
ゆなとしずかは顔を見合わせる。
そして、同じような生ぬるい目をした。
少し沈黙が落ちた。
だらだらした時間が戻りかけたその時――
しずかが、何でもないように口を開いた。
「そういえば、エンデはたけるが帰ってきたら子を成す為の行為をするみたい」
ゆなは突っ伏したまま、ぼーっと返す。
「へぇ……そうなんですねぇ……」
だが、数秒遅れて。
「……えっ!?!?」
ゆなが勢いよく顔を上げた。
「どういう事ですか!?」
しずかは淡々と説明する。
「淑女は認めた相手がいれば子を成す行為をするのが当然みたい。エンデがそう言っていた。私は楽しみにしている」
しずかはすくっと姿勢を正し、エンデを見た。
ゆなも同じように顔を上げ、頬を少し赤くしてエンデを見る。
「そ、そんな簡単に……えっちな事するんですか……魔族の人って凄いんですねぇ……」
「ち、ちがっ……!」
エンデは慌てて咳払いした。
「ま、まぁ……文化の違いというやつだな!」
声が上ずっている。
ゆなは目をきらきらさせた。
「私、そういうのしたことないので憧れます!どんな風にするんですか?」
エンデは完全に詰んだ顔をした。
「ど、どんな風にって……」
しずかも無表情で追撃する。
「説明して」
「……」
エンデは視線を泳がせ、苦し紛れに答えた。
「……相手の目を見ればどうしたいかわかる。流れに任せて事に及べば、それで終わりだ」
「へぇー……」
ゆなは妙に納得したように頷いた。
しずかも頷く。
「……なるほど」
その反応が逆に怖い。
エンデは汗をかきながら、椅子に座り直した。
(こやつら……絶対分かっておる……)
だが、ゆなはにこっと笑った。
「たけるさんが帰ってきた時を楽しみにしてますね!」
しずかも静かに頷く。
「私も応援している」
完全に、面白がっている。
エンデは顔を赤くして、咳払いをした。
「じゃがの!私は魔族だ!たけるが私の好意を無碍にする可能性もある!その場合は引き下がることもあろう!それだけは理解しておけ!」
必死すぎる言い訳だった。
だが、ゆなは首を傾げた。
「それはないと思いますよ」
「……どういう事だ?」
エンデが聞き返す。
ゆなは当たり前のように言った。
「たけるさん、しずかさんのこと受け入れてますし。魔族だからって否定する人じゃないと思います」
「そ、そうなのか……?」
エンデは少し安心したような顔になった。
しかし、その直後。
ふと、違和感が胸に刺さった。
「……受け入れている?」
「……しずかのこと?」
エンデの眉が寄った。
ゆなが何気なく言う。
「だって、しずかさん死んでるじゃないですか」
その瞬間。
空気が止まった。
エンデの顔から血の気が引く。
「…………は?」
ゆなは「え?」という顔をする。
しずかはいつも通り淡々と頷いた。
「……うん。死んでる」
エンデは固まった。
口が半開きのまま動かない。
やっと出てきた声は、震えていた。
「し、死んで……おるのか……?」
「……うん」
しずかは普通に返す。
まるで「今日は晴れ」とでも言うように。
エンデは数秒、何も言えなかった。
そして――
呆然とした顔で、ぽつりと呟いた。
「表情が死んでいるとは思ったが……本当に死んでいたとは……」
「……失礼」
しずかが静かに言う。
ゆなはぷっと吹き出しそうになり、慌てて口を押さえた。
だがエンデは、それどころではなかった。
頭の中で何かが繋がっていく。
指輪。
消える姿。
見えるのはたけるだけ。
そして――あの妙に落ち着いた空気。
「……ま、待て」
エンデは額に手を当てた。
「つまり……たけるは……死者と暮らしておるのか……?」
しずかは少し考え、首を傾げる。
「……暮らしてる」
ゆなは笑顔で付け足した。
「普通に暮らしてます!」
「普通とはなんだ!!」
エンデの叫びが、家の中に響いた。
だらだらした女子会の空気は――
ここで一度、完全に崩壊した。




