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借りる理由と、住む理由

俺とゆなは、他愛ない会話をしながら、ルナに教えてもらった“家を借りられる場所”へ向かっていた。

 歩く速度も自然と揃っていて、不思議と居心地がいい。


 辿り着いたのは、少し大きめの木造の家だった。

 平民街らしい素朴な造りだが、手入れは行き届いている。


 中に入ると、


「いらっしゃい」


 五十代くらいのおばさんが、にこやかに迎えてくれた。


 事情を説明すると、いくつかの物件を勧めてくれる。

 話を聞きながら、この街の造りについても教えてもらった。


 街の中心、小高い場所には王城。

 その下に円形に広がる石造りの貴族街。

 高い塀に囲まれ、東西南北に橋がかかり、その先に平民街が広がっている。


 俺たちが今いるのは、その平民街。

 木造の集合住宅や簡素な家が並び、外に行くほど賃料は安く、内側に行くほど高くなる。


 いくつかの物件を見ているうちに、俺は一軒の家で足を止めた。


「……ここ、いいな」


 思わず口に出る。


 すると、隣に座っていたゆなが、ぱっと顔を上げた。


「いいですよね!

 私も、ここいいなぁって思ってました」


 同じ感想だったことが、少し嬉しい。


 だが、おばさんは少し困ったように笑った。


「ちょっと離れてるけど、悪くない物件だよ。

 ただね……一人で住むなら、あんまり勧められないね」


「一人だと、何か不都合があるんですか?」


 嫌な予感がして聞くと、おばさんはあっさり言った。


「何人か一人で住んだ人はいるんだけどね、

 一人で住んだ人は、必ず十日以内に引っ越してるんだ」


「……出るんですか?」


 現代にも事故物件はある。

 そういう類だろうと思って聞くと、おばさんは頷いた。


「そうだね。

 二人以上で住めば出ないらしいんだけど、

 一人の時だけ出る理由が分からなくてね。

 一応、先に伝えてるんだよ」


「……そうですか」


 正直、物件としてはかなりいい。

 だが、面倒ごとは避けたい。


 うーん、と考え込んでいると、ゆなが小さく手を挙げた。


「二人なら……大丈夫なんですよね?」


「ああ、二人なら問題ないと思うよ」


 その言葉を聞いて、ゆなは黙り込んだ。


 契約金は一括。

 報奨金が入ったとはいえ、この世界のことはまだ分からない。

 見るだけのつもりだったし、俺たちは「考えてみます」と伝えて、その場を後にした。


 外に出ても、ゆなはどこか考え込んでいる様子だった。


「何か気になったことある?」


 俺は声をかける。


「言うだけならタダだし、話してみてよ」


「……凄く、いい物件だなって思ってて」


 そう前置きしてから、ゆなは自分のことを話してくれた。


 数年前、両親が不慮の事故で亡くなったこと。

 知り合いだった宿屋のおばさんの世話になっていること。

 部屋は借りているが、混雑する日は客のために明け渡さなければならず、

 そのたびに友人の家に泊まること。


 落ち着ける場所がない。

 それが、ずっと引っかかっているらしい。


「ああ……それは、つらいな」


 正直、俺だったら耐えられない。


 今日は家でゆっくり過ごそうと思っていた日に、

「部屋を空けて」なんて言われたら、怒りしか湧かないだろう。


 俺は、強く同情してしまった。


 報奨金は、正直予定外の収入だ。

 全部使ってしまっても、元々なかったものだと思えばいい。


 宝くじみたいなものだし、

 こういう金は使うことで巡ってくる――誰かが言っていた。


 だから、俺は決断した。


「……それじゃあさ」


 少し間を置いて言う。


「あの家、借りて一緒に住む?」


「えっ!?」


 ゆなの目が大きく見開かれる。


「いいんですか!?」


「まあ……俺と一緒に住むことになるけど、

 それでも良ければ」


 すると、ゆなは一瞬も迷わず答えた。


「はい!

 たけるさんとなら、全然大丈夫です!」


 即答だった。


 ……迷い、なさすぎないか?


 少し疑問には思ったが、

 自分で言った言葉には責任を持ちたい。


「じゃあ、いつ契約に行こうか?

 早い方がいい?」


「早い方がいいです!

 あっ……今日のお休みが終わると、次の休みまで空いちゃって……」


「それなら、今から行こうか」


 俺は肩をすくめる。


「俺、暇だし」


「いいんですか!?

 お願いします!」


 こうして俺とゆなは、そのまま引き返し、

 あのおばさんの元へ向かった。


 ――その日、

 俺たちは家を借り、

 静かに、同棲生活を始めることになった。


 何かが始まった、というより。

 ようやく、生活が始まった――そんな感覚だった。

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