男旅の終わりは、意外とあっさりしている
ローワンたちと合流するまでの道中も、俺たちは変わらず同じ調子だった。
コウヘイが血眼になって木を探し、
俺が周囲を警戒して雷で牽制する。
そして、コウヘイが見つけたら――俺が取る。
「……いや、これ本当に仕事か?」
そんな疑問が頭をよぎるくらい、妙にスムーズだった。
すると、後ろを歩いていたウィルが、ぽつりと呟く。
「……なぜ、そんな簡単に取れるんですか?」
その声には、驚きと、少しの悔しさが混ざっていた。
俺は歩きながら肩越しに振り返る。
「え? 簡単っていうか……普通に引っ張ったら取れるぞ?」
「僕たちは……一つ取るのに、かなり時間がかかりました」
ウィルが悔しそうに眉を寄せる。
「敵が出るから、採取より防御が優先になって……」
「あー……なるほど」
俺は納得した。
俺の場合、雷で威嚇すれば大抵の動物は近寄ってこない。
そもそも敵がまともに襲ってくる前に、追い払える。
その差だろう。
「まぁ……お前らは普通に戦ってたってことか」
「はい……」
ウィルが小さく頷いた。
その横で、コウヘイは鼻息を荒くしていた。
「金だ……金の匂いがする……!」
「お前はもう魔石じゃなくて金を探してるだろ」
「当たり前だろ! これで俺はルナを落とすんだ!」
「金で落ちるのか?」
「落ちる!! 多分!!」
多分ってなんだよ。
俺は心の中で突っ込みつつ、適当に頷いておいた。
「……まぁ、頑張れ」
「任せろ!」
そんなやり取りをしながら進んでいると、木々の隙間に人影が見えた。
ローワンとベイリーだ。
二人とも鎧に擦り傷が増えていて、顔も疲れている。
一目で、苦労していたのが分かった。
ウィルが少し姿勢を正し、声を張る。
「戻りました!」
ローワンがこちらを見て、腕を組んだ。
「おう。どうだった?」
そして続けて、苦笑しながら言う。
「俺たちは……やっと一つ採れたくらいだな」
「え、マジっすか?」
コウヘイが間抜けな声を出す。
ベイリーは小さくため息を吐いていた。
「魔石の木は、そう簡単には見つからん」
「へぇ……」
俺は少しだけ申し訳なくなった。
コウヘイがにこにこしながら袋を持ち上げる。
「俺らはこのくらいっす!」
「……ん?」
ローワンが受け取って中を覗いた瞬間、動きが止まった。
そして、ゆっくり顔を上げる。
「……この短時間で?」
「はい!」
コウヘイが即答する。
ベイリーも覗き込み、目を見開いた。
「……ありえん」
ローワンが袋を持ったまま、俺を見た。
「たける。何をした?」
俺は首を傾げる。
「いや……普通に探して、普通に取っただけですけど」
「嘘をつけ」
「いや、マジで」
コウヘイが得意げに胸を張る。
「俺が見つけて、たけるが取る! 完璧な連携です!」
「それは連携と言うのか……?」
ローワンが頭を抱えた。
だが次の瞬間、ローワンは大きく笑った。
「はっはっは! まぁいい! 結果が全てだ!」
そして俺の肩を叩く。
「これだけあれば十分すぎる。報奨金も期待していいだろう」
その言葉に、コウヘイが叫んだ。
「うおっしゃああああああ!!」
「うるせぇ!」
俺が突っ込むと、ベイリーが笑いながら言った。
「……元気だな」
そのまま俺たちは、数日かけて街へ戻ることになった。
ローワンとベイリーは、予想より早く終わったことが少し残念そうだった。
ベイリーが焚き火を眺めながら言う。
「この楽しい旅も終わりかぁ……」
ローワンも、酒瓶を片手に深いため息を吐いた。
「はぁ……また城に戻ったら、窮屈な生活だな」
俺は苦笑して肩をすくめる。
「まぁ……俺らも、こういうのは滅多にできないですしね」
「たける!」
ローワンが妙に真剣な顔で言った。
「次があったら、絶対に俺たちを指名しろ」
「いや、指名って……」
「頼むぞ!」
「早めにな!!」
ベイリーまで乗ってくる。
二人とも、思った以上にこの旅が楽しかったらしい。
俺は少し笑って頷いた。
「わかりました。機会があればまた」
その言葉に、ローワンは満足そうに笑った。
「よし。約束だ」
街に着くと、空気が一気に変わった。
ローワンもベイリーも、背筋が伸びる。
さっきまでのくだらないノリが嘘みたいに消えていた。
ローワンがこちらを向き、声を落とす。
「魔石は王妃様へ必ず渡す」
「わかりました」
ベイリーも続けて言う。
「鑑定を迅速に済ませ、依頼料も早めに支払う。受け取りの連絡はすぐに出す」
その言葉に、コウヘイが飛び跳ねそうな勢いで頭を下げた。
「ありがとうございます!! よろしくお願いします!!」
「任せておけ」
ベイリーは淡々と返し、三人はそのまま城へ向かった。
残された俺とコウヘイは、街の入り口で立ち止まった。
コウヘイがぽつりと言う。
「貴族って……もっと怖いもんだと思ってた」
「俺もだな」
俺は正直に答えた。
王も王妃も、ガラテアも、護衛の二人も。
面倒なことはあるが、理不尽さはあまり感じない。
この国は、思ったよりまともだ。
コウヘイはにやりと笑った。
「俺、ルナ落とせる気がしてきた」
「どこからその自信が出てくるんだよ」
「金がある!」
「お前は金しかないのか」
「それでいいんだよ!!」
コウヘイは満面の笑みでそう言い切った。
俺はため息を吐きつつも、少しだけ笑ってしまった。
「まぁ……最近は家空けすぎだし、次はそんなに手伝えないと思うぞ」
「いいんだよ!」
コウヘイは手を振る。
「また面白いことがあったら誘ってくれ! 俺も今度はもっと役に立つ!」
「おう」
「そん時は、付き合った後の相談もな!」
「……それは無理だ」
「なんでだよ!」
「俺、女と付き合ったことねぇから」
「はぁ!?」
コウヘイが目を丸くした。
だが俺はそれ以上言う前に、話を切った。
「じゃあな。俺は帰る」
「お、おう! またな!」
そう言い残してコウヘイは走り去っていった。
俺はその背中を見送りながら、少しだけ思う。
――なんだかんだ、いい旅だったな。
酒を飲んで、肉を食って、馬を世話して、裸踊りして。
くだらないことばかりだったのに、
不思議と、胸の奥が温かい。
俺はそのまま家へ向かって歩き出した。
しずかとゆなとエンデが待つ、あの家へ。




