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雷の実験と、森の奥で見た地獄

二手に分かれた俺とコウヘイは、森の中を慎重に進んでいた。


 空気が湿っていて、木々の影が妙に濃い。


 この森は、ただの森じゃない。


 そんな感覚が肌にまとわりつく。


「魔石ってのは、こういう木に埋まってる事が多いらしい」


 ローワンの説明を思い出しながら、俺は辺りを見渡す。


 魔石は、特定の木に寄生するように生える。


 つまり、適当に歩いてるだけじゃ見つからない。


 そして、今回の成果はコウヘイの報酬に直結する。


 本人もそれが分かっているのだろう。


 コウヘイはやけに真剣だった。


 いつもの軽さがない。


 地面、木の根、幹の割れ目、枝の影――


 ありとあらゆる場所に目を走らせている。


「俺は魔石を探す! たけるは襲ってくるやつを倒してくれ!」


「おう。任せろ」


 俺はそう答えながら、周囲を警戒した。


 時々、獣の気配がする。


 影が動く。


 だが、こちらに近づこうとする気配があれば――


 指先から雷を散らし、地面にびりっと走らせる。


 威嚇だけで十分だった。


 獣たちは「やべぇ」とでも言いたげに、すぐ森の奥へ逃げていく。


「……ほんとお前、反則だよな」


 コウヘイがぼそっと言う。


「俺もそう思う」


 魔法って、便利すぎる。


 俺は動物を警戒しながら、同時に魔石らしきものがないか俯瞰するように森を見た。


 すると――


「これだろ!!」


 コウヘイの声が弾んだ。


 駆け寄ると、そこには歪な木が一本。


 幹の途中が不自然に割れていて、その隙間から赤い光が漏れている。


 小さな水晶みたいなものが、幹に埋まっていた。


「……あったな」


「よっしゃ!!」


 コウヘイは勢いよく手を伸ばす。


 だが。


「……っ!? 取れねぇ!!」


 引っ張っても、びくともしない。


「え、そんな固いのか?」


 俺が代わりに掴むと――


 すぽっ。


 驚くほどあっさり抜けた。


「……取れたぞ」


「はぁ!? なんで取れるんだよ!? 俺、全力だったぞ!?」


「いや、わからん。普通に取れた」


 コウヘイは信じられないという顔で魔石を見つめた。


「お前……手だけ怪物か?」


「失礼すぎるだろ」


 でも、俺も正直よく分からない。


 魔力があるとこういうのが抜けやすいのか?


 それとも、俺の力が単純に強いのか。


 考えても答えは出ないので、俺は深く考えるのをやめた。


 取れればいい。


 結果がすべてだ。


 そう割り切って進む。


 それからも同じ流れだった。


 コウヘイが見つける。


 俺が取る。


 コウヘイが悔しがる。


 俺が「知らん」と言う。


 それを繰り返しながら、森を進む。


 魔石の数が増えていくにつれて、コウヘイのテンションも上がっていった。


「これ、報酬かなりいくんじゃねぇか……!?」


「欲出てきたな」


「当たり前だろ!!」


 コウヘイは笑っていた。


 その笑い方は、いつものコウヘイそのものだった。


 だが――


 ふと、コウヘイが思い出したように言った。


「そういえばさ」


「ん?」


「お前、前に雷まとって速く動いてたよな? あれ、なんなんだ?」


「あー……」


 確かに、俺は雷をまとって動いたことがある。


 自分でもよく分からないが、身体が軽くなる感じがした。


「魔法……だと思う」


「よくわからんのかよ」


「よくわからん」


 俺が正直に言うと、コウヘイは目を輝かせた。


「ちょっとやってみてくれよ!」


「今?」


「今!!」


 なんだこいつ。


 完全に子供のノリだ。


 でもまあ、危険じゃないならいいか。


 俺は息を吸って、全身に薄く雷をまとわせた。


 皮膚の表面を、細い電流が走る感覚。


 髪が少し逆立つ。


 空気が微かに焦げた匂いを帯びた。


「これでいいか?」


「おお……それって雷?」


「多分な。雨の日に落ちるやつと同じだと思う」


「触っても大丈夫なのか?」


 そう言われて俺は少し考えた。


 ライアンが「びりびりする」って言ってた。


 電気風呂みたいなもんだろう。


 死ぬほどじゃないはずだ。


「触っても大丈夫だと思うぞ。びりっとするらしいけど」


 俺がそう言った瞬間。


 コウヘイは遠慮なく触った。


 指先で。


 軽く。


 ……軽く触っただけのはずなのに。


「――ああああああああっ!!!」


 森に響き渡る絶叫。


 次の瞬間、コウヘイの身体がびくびくっと跳ねて――


 のけぞるように倒れた。


 そしてそのまま、草木に頭から突っ込んだ。


「……え?」


 俺は固まった。


 雷は消した。


 慌てて駆け寄り、草の前に立つ。


「おい、コウヘイ!? 大丈夫か!?」


 返事はない。


 ……死んだ?


 いや、まさか。


 俺が顔を覗き込もうとした、その時。


 草の中から、ゆっくりと手が上がった。


 親指だけ立っている。


 サムズアップだ。


「……生きてるな」


 俺は心底ほっとした。


「お前、ほんと無茶するなよ」


 そう言いながら息を吐いた瞬間――


 俺は急な尿意を催した。


 さっきまで平気だったのに。


 こういうのって急にくる。


「……悪い。ちょっとしょんべん!」


 サムズアップしているコウヘイに声をかけ、俺は少し離れた場所へ移動した。


 森の木陰で用を足す。


 ……が。


 思ったより止まらない。


「なんでこんな長いんだよ……」


 妙に情けない気持ちになりながら、ようやく終えた。


 すっきりした気分で戻る。


 草木に頭を突っ込んだままのコウヘイの方へ歩いていく。


 ……そして。


 俺は見た。


 そこには。


 草むらに倒れたコウヘイの尻を、やけに丁寧に撫でながら――


 何かをぼそぼそ言っているウィルの姿があった。


「……」


 俺は一瞬、理解が追いつかなかった。


 ウィルは真剣な顔で、まるで獲物の状態を確認するみたいにコウヘイの尻を撫でている。


 コウヘイはまだ草むらに頭を突っ込んでいる。


 完全に無防備だ。


 俺は少し近づき声をかけようとしたがウィルの不穏な言葉が聞こえて足を止めた。

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