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護衛が砕けたら、堅苦しい旅が一気に男同士の旅になった

馬車に揺られ、俺としずかは家へ戻った。


 城の空気に慣れてきたつもりだったけど――やっぱり帰ってくると、胸の奥が落ち着く。


 扉を開けると、遅い時間にもかかわらず、ゆなとエンデが待っていた。


「おかえりなさいっ!」


 ゆながぱっと笑う。


 その横でエンデは、いつも通り澄ました顔で座っている。


 ……いや、座ってるというより“待ってたぞ”みたいな顔をしてる。


「ただいま」


 そう言うと、ゆながしずかの方を見た。


「しずかさん……大丈夫でした?」


「……うん」


 相変わらず短い返事だが、表情はほんの少し柔らかい。


 俺は軽く頭を掻きながら言った。


「城では特に問題なかったよ。まぁ……ガラテアが色々暴走してたけど」


 その言葉に、ゆなが苦笑いを浮かべる。


「ですよね……想像できます」


 しずかは何も言わず、静かに靴を脱いで部屋へ入った。


 エンデはしずかを一瞬だけ見てから、俺の足元に寄ってきて、軽く尻尾を揺らす。


 ……帰ってきたってことは認めてくれてるらしい。


 その後は城での出来事を軽く話し、風呂に入り、いつものように寝床へ向かった。


 ただ――そこで問題が発生した。


 布団に入った瞬間、しずかが俺をじっと見てきたのだ。


「……明日から、行くの?」


 その声がいつもより少し低い。


 俺は布団に入りながら、頷いた。


「うん。魔石取りに行く」


 その瞬間、しずかの空気が一段冷たくなった気がした。


「……嫌」


 即答だった。


 俺は苦笑いする。


「いや、俺も別に好きで行くわけじゃないんだけどさ」


 しずかは何も言わない。


 けど、布団の中で俺の服を掴んでいる。


 その指先が、納得してないって言ってる。


 俺は少しだけ真面目に言った。


「しずかさ。前にも言ったけど、何かしてもらったら、こっちも何か返さないといけないだろ?」


「……それは、分かる」


 しずかは小さく頷いた。


 でも、その目が言っている。


 ――分かるけど、嫌だ。


 俺はため息をついて、しずかの髪を軽く撫でる。


「すぐ帰るよ。帰ってきたら、また美味いの作るから」


 しずかは少しだけ間を置いて、ようやく言った。


「……絶対」


「絶対」


 それでやっと、しずかは目を閉じた。


 エンデはというと――


 布団の上で丸くなりながら、なぜか勝ち誇った顔をしていた。


 ……なんでだよ。


 翌朝。


 いつも通りの時間に起きて、全員で朝食を取る。


 ゆなは食事をしながら、寂しそうに口を尖らせた。


「たけるさん、また数日いないんですよね……」


「まぁな」


「料理も……お風呂も……」


「風呂は俺関係ないだろ」


「関係あります!」


 ゆながむっとする。


 その横で、しずかが静かに頷いた。


「……関係ある」


「え、しずかも?」


 俺がそう言うと、しずかは淡々と答える。


「たけるがいないと、落ち着かない」


 俺は一瞬だけ固まった。


 ゆなも箸を止めて、しずかを見た。


 しずかは気にせず食事を続ける。


 俺は咳払いをして、誤魔化すように笑った。


「帰ったらまた色々作るから。デザートもな」


 その言葉でゆなが一気に復活する。


「ほんとですか!?絶対ですよ!?」


「絶対」


 俺がそう言うと、ゆなは満足そうに頷いた。


 しずかは――何も言わないが、どこか機嫌が直った気配がした。


 ゆなを見送った後、俺は旅の準備に入った。


 水の補充。


 保存できる料理。


 簡単に食べられる甘いもの。


 それから、もしものための確認。


 万が一、指輪やネックレスが外れた場合――。


 杭に紐で吊るした指輪を使い、しずかが見えない状態でも指輪に指を通して装着できるか。


 そういう検証までしておく。


 しずかは横でじっと見ていた。


「……念入り」


「お前が消えたら困るからな」


 しずかは少しだけ目を細めた。


 その表情は、ほとんど分からない。


 けど、満足してる気がした。


 そんなことをしていると、こんこんとノックが鳴った。


 扉を開けると――


「たける!」


 そこにいたのはコウヘイだった。


 顔がやたら明るい。


 開口一番、叫ぶように言う。


「本当にありがとうな!!」


「うるせぇ」


 俺は笑いながら肩を叩いた。


 コウヘイは興奮したまま話し出す。


「いやマジでさ!王妃様が護衛費用出してくれるとか意味わかんねぇ!俺、ただの平民だぞ!?」


「俺も意味わかんねぇよ」


 王妃ユリアナに、魔石採掘に知り合いを一人連れて行きたいと打診した。


 コウヘイの費用は俺が出すつもりだったが――結果的に、魔石の採掘量に応じた報奨金から、王妃が護衛費用を出す形になった。


 コウヘイは腕を組んで、うんうんと頷く。


「俺さ、仕事場の長にも話したんだよ」


「なんて?」


「生活できてるなら問題ないってさ!困ったら戻ってこいって!」


 その言葉に、俺は少し安心した。


 この世界にも、ちゃんと“まともな大人”がいる。


 ……いや、まともじゃない大人も多いけど。


 コウヘイが少し落ち着いたところで、またノックが鳴った。


 扉を開けると――いつもの護衛が立っていた。


 今回はウィルが馬に乗り、馬二頭が引く馬車。


 馬車の中に俺とコウヘイ、護衛の一人。


 御者として護衛の一人。


 そしてウィル。


 計五人の旅だ。


 護衛の男は軽く会釈し、落ち着いた声で名乗った。


「ローワンだ。今回の護衛を務める」


 金色の短髪に、整えられた顎ひげ。


 年は四十代くらいだろう。


 顔立ちも悪くないし、いかにも“護衛の貴族”という雰囲気がある。


 その横に立つもう一人は、頭頂部が禿げ上がり、そこから短い茶色の髪が生えている。


 ……正直、見た目はあまり強そうじゃない。


 だが、目が鋭い。


 こっちはすぐに言った。


「ベイリーだ。よろしくな」


 俺とコウヘイも軽く自己紹介を交わし、馬車は動き出した。


 揺れる車内で、コウヘイが小声で俺に耳打ちする。


「なぁ……この二人、怖ぇんだけど」


「わかる」


「絶対怒らせたら死ぬやつだろ」


「多分な」


 ウィルは馬に乗ったまま無言。


 護衛二人も無言。


 空気は硬い。


 ……旅ってこんな感じだっけ?


 俺は窓の外を見ながら、ちょっとだけ気が重くなった。


 半日ほど馬車を走らせ――


 川の近くの、ひらけた場所で野営することになった。


 馬車が止まり、全員が馬から降りる。


 川の音が心地いい。


 風も悪くない。


 そして――集合した瞬間。


 ローワンが口を開いた。


「ここまでくれば大丈夫だろう」


 その声は、さっきまでと違った。


 妙に明るい。


 そして、にやりと笑った。


「今回は男だけの旅になる。姫も侍女もいない。男同士、気楽に楽しんで過ごす日常としようではないか」


 ……え?


 俺とコウヘイは顔を見合わせた。


 ベイリーも、笑いながら腕を組む。


「いいですね!こんな機会でもないと肩の力抜けないですからね!」


 ローワンは豪快に笑う。


「はっはっは!だよな?」


 ベイリーは頷き、馬を撫でながら言った。


「ほんとに。ウィルもこの旅では気楽にしろ。こんな機会はまずないからな」


 ウィルは少し戸惑いながらも頷く。


「……はい。分かりました」


 その瞬間、コウヘイがぱっと顔を明るくした。


「え!?マジっすか!?俺らも気楽な感じでいいんですか!?」


 ローワンは当然のように言った。


「当たり前だろ?」


「おおーっ!よかったぁ!!」


 コウヘイは心底安心したように肩を落とす。


「下手なことしたら殺されると思って、ちょっと緊張してましたよ!」


 その言葉に、ベイリーが腹を抱えて笑った。


「殺すわけないだろ!」


 ローワンも笑いながら言う。


「まぁ、馬鹿をやったら殴るくらいはするがな」


「殴るんじゃねぇか!」


 コウヘイが突っ込むと、全員が笑った。


 俺も思わず笑ってしまった。


 ――ああ、なるほど。


 これは無礼講ってやつだ。


 俺は腕を伸ばしながら言った。


「こうなってくると、今回の旅……マジで楽しみですね」


 ベイリーが拳を握り、やたらテンション高く叫ぶ。


「俺らもだ!今回ははしゃぐぞー!!」


 ローワンがうなずく。


「貴族だ平民だ、そんなものは今だけ忘れろ。魔石を探し、食い、飲み、笑って寝る。それが旅だ」


 ウィルも少しだけ笑った。


「……はい」


 コウヘイが俺の肩を叩き、ニヤリとする。


「たける。最高の旅になりそうだな」


 俺は川の音を聞きながら、頷いた。


「ああ……間違いない」


 こうして、男だけの旅が始まった。


 たぶん――


 しずかとゆながいたら絶対に見られない、ちょっと馬鹿な日常が。

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