表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

半日仕事と、街案内と、宿屋の娘

王城へ呼ばれてから、数日が経った。

 俺は特に何も変わらず、いつも通り土木工事に励んでいる。


 この現場はかなり大規模な工事らしく、数か月以上はかかるとのことだ。

 仕事を探し回らず、同じ場所で腰を据えて働けるのは本当にありがたい。


 慣れた手つきで作業を進めていると、少し離れた場所で働いているルナと目が合った。


 ――ジト目。


 何か言いたいことがあるのは一目で分かる。

 普通に話す分にはそこまでおかしくないのだが、初手は必ず面倒な流れになる。


 できれば関わりたくない。


 俺は気づかないふりをして、作業に集中した。


 その日は午後から天気が崩れるかもしれないということで、昼までの半ドンになった。

 現場って感じだよな、と内心思いながら片付けを始める。


 すると――


「おい、おい!」


 やっぱり来た。


「一緒に討伐してほしいと言っていた魔物を、先に狩るとはどういうことだ?」


 ルナが腕を組み、不機嫌そうに睨んでくる。


「褒賞金も受け取り、王城にも出向いたと聞いている。

 倒す前に、私に一言あってもよかったんじゃないか?」


 ……面倒くさい。


 その感情が、たぶん顔に出てしまったのだろう。


「なんだその顔は!」


 ルナは声を荒げ、そして少しだけ声を落とした。


「私だって……私だって……

 褒賞金、欲しかったのに」


 ぐちぐちと小言を言われながら、俺は帰り支度を続ける。


 知らないうちに倒して、呼ばれたから城へ行っただけだ。

 どこに報告する時間があったんだよ、と内心で突っ込む。


 すると、ルナが急に顔を上げた。


「そうだ!

 私に何かしてほしいことはないか!?

 道案内でも、なんでもいい!」


 嫌な予感しかしない。


「その対価として、報奨金の一部を貰えないか?」


 ……やっぱりだ。


 この瞬間、俺は確信した。

 テンプレ美少女は、やっぱり頭がおかしい。


 だが、これ以上絡まれるのも面倒だ。


「じゃあ、街の案内してくれ」


 俺はため息混じりに言った。


「それで今回の魔物の件は終わりだ。

 二度とこの話で絡んでくるな」


「わかった!」


 即答だった。


「対価はいくらだ!?

 どうせなら昼飯も奢ってくれ!」


 ……図々しい。

 だが、ここまで来ると逆に清々しい。


 結局、昼飯を奢り、街の店や施設をいくつか案内してもらい、そのまま解散した。


 正直なところ、現代に染まった俺からすると、

 街にあっても特別面白いものはなかった。


 ただ、一つだけ有益な情報を得た。


 ――宿に泊まり続けるより、部屋を借りた方が安く済む。


 解散後、俺は教えてもらった場所へ向かうことにした。

 どのくらいの値段で借りられるのか、見てみるだけだ。


 その途中だった。


「こんにちは。たけるさん。

 今日はおでかけですか?」


 前から歩いてきたのは、見慣れた顔。


 宿屋で働く少女――ゆなだ。


 年は十七歳くらいだろうか。

 黒髪のショートボブがよく似合っていて、碧い瞳が印象的だ。

 派手さはないが、素直に「可愛い」と思える顔立ちで、表情も柔らかい。


 真面目で、まともで、性格がとにかくいい。


 毎日のように挨拶を交わし、少しずつ会話も増えて、自然と仲良くなっていた。


 正直――

 この子と話すのは、楽しい。


「こんにちは」


 俺は自然に笑って答えた。


「部屋を借りた方が宿より安いって聞いてさ。

 いくらくらいか見てみようかなって思ってる」


 すると、ゆなは少しだけ、寂しそうな顔をした。


「……そうなんですね。

 いなくなっちゃうって分かると、ちょっと寂しいです」


 笑ってはいるが、本当に残念そうだ。


 胸の奥が、少しだけ痛む。


「いや、まだ見るだけだよ!」


 慣れないフォローを入れる。


「すぐ借りるわけじゃないし、そんな顔しないでくれ」


「あっ……そうですよね!」


 ぱっと表情が明るくなる。


「よかったです」


 ――いや、これ。

 ヒロインじゃないか?


 そんなことを思っていると、ゆなが少し遠慮がちに言った。


「あの……よかったら、私もついていっていいですか?」


「ん?

 別にいいよ」


 特に断る理由もない。


 こうして俺は、

 宿屋の娘・ゆなと一緒に、部屋探しをすることになった。


 ――静かで、穏やかな時間の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ