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異世界に来たので、とりあえず今日の飯代を稼ごうと思う

息抜き作品です。

俺の名前は吉田たける、二十三歳だ。身長は百七十三センチ、体型は細身。

 黒髪は寝癖がつかない程度に短く切っているが、整えているわけでもない。顔立ちは悪くない……と自分では思っているが、やる気のなさが常に表情に出ているらしく、よく「眠そうだな」と言われる。実際、人生に対してあまり本気を出した覚えはない。


 何度も女性に振られ、心がすり減った末に、男友達との一夜をきっかけに「もう男でいいか」と思うようになった。

 そのことが家族に知られ、あっさりと絶縁。

 欲も強い方ではないので、たまに男と大人の遊びをするくらいしか楽しみはなく、工場で働いて、飯を食って、寝るだけの日々を送っていた。


 ――そんな俺の人生が変わったのは、仕事帰りの何でもない帰り道だった。


 夜道をぼんやり歩いていると、突然、頭上から光が降ってきた。

 眩しい、というよりも、包み込まれるような感覚。

 足が地面から離れ、ふわりとした浮遊感を覚えた瞬間、意識がぷつりと途切れた。


 次に目を開けた時、俺は石畳の上に座り込んでいた。


 見渡すと、剣を腰に下げた男、ローブ姿の女、見たこともない建物。

 ――どう見ても、漫画や小説でよく見る異世界のテンプレ風景だった。


「……あー、これ、異世界転移ってやつか」


 自分でも驚くほど冷静だった。

 なぜか周囲の人間の言葉は普通に理解できるし、帰り方なんて分かるはずもない。混乱するより先に、どうでもよくなってしまったのだ。


 通行の邪魔になりそうだったので、とりあえず立ち上がり、当てもなく歩き始める。

 散策して分かったのは、ここが本当に“テンプレっぽい異世界”だということだった。

 街並み、服装、雰囲気。どれも見覚えがある。


 順応はできそうだ。

 ――問題は、金だった。


「……ギルドとか、あるんだろうか」


 そう思いながら、暇そうにしていた渋い顔のおじさんに声をかけてみる。

 返ってきた答えは、予想外だった。


「ギルド? 冒険者? ねぇな、そんなもん。金が欲しけりゃ働け」


 ぶっきらぼうに教えられたのは、この街には冒険者ギルドなど存在せず、仕事は日雇いが基本だということ。

 いわば、ハローワークみたいな場所があるらしい。


 テンプレと違うじゃん、と思いながらも、今日の飯代くらいは稼がないと死ぬ。

 教えられた場所へ向かうことにした。


 そこにあったのは、石造りの建物だった。海外の写真でよく見るような、無骨な作り。

 中に入ると、適当に並べられた机と椅子、そして受付には男と女が三人ほど。


 女は論外。

 俺は真面目そうな男の職員を選び、道に迷って金をなくしたという適当な言い訳をして、今日と明日の食費分だけでも稼ぎたいと伝えた。


 紹介された仕事は、土木工事の手伝い。


「……まあ、工場で働いてたしな」


 身体を動かす仕事は慣れている。

 それに、男が多い現場なら、いい男がいる可能性もある。

 俺は軽い気持ちで了承し、指示された場所へ向かった。


 現場には、予想通り男が多かった。

 ただし、女性も混じっていて、思ったほどむさくるしくはない。


 現場の長らしい人物に事情を伝え、仕事に取り掛かる。

 土を運び、石を積み、汗を流す。

 久しぶりに「生きてるな」と思えた気がした。


 仕事が終わると、約束通り金を受け取った。


「また働きたきゃ、明日も来い」


 そう言われ、泊まれる宿も教えてもらう。

 宿の部屋は狭く、ぼろいベッドが一つあるだけだったが、不思議と悪くない。


 ベッドに寝転び、天井を見上げる。


「……なんとかなるもんだな」


 そう呟いたところで、急に眠気が押し寄せてきた。

 俺はそのまま目を閉じ、異世界での一日目を終えた。

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