動植物園
「ねぇラオル、マンネリした恋愛において一歩先に進ませる促進力になるものは何かしらね?」
「は?何だよ急に。だがそうだな、ライバルの登場とか?吊り橋とか非日常的な場所に行くとか?」
「ライバルね。ラウルあなたはまあ美形よね?お願いがあるの」
「またかよ?この間お前の浮気だかの噂流すの手伝ったじゃん!今度は何だよ!」
「オーランジュ嬢を紹介して欲しいのでしょ?だったら頑張りなさいね」
「クソッ絶対紹介しろよ!」
「では⋯⋯⋯⋯」
「ベルナール様ごきげんよう」
「ニナ嬢は今日も美しいですね。その、隣の方は?」
「ラオル・フローランスと申します。始めまして」
本日は動植物園に来ております。ここは珍しい動物や植物が見られる場所で王都民に人気のデートスポットです。
「ラオルが動物好きなのでお誘いいたしました」
「⋯⋯⋯⋯ええ。私は動物が好きなんですよ。ははは」
ラオルにはもう少ししっかりして欲しいですね。
私達三人はまず動物園の方から見て回ります。今日は休日でしかも晴天ですから沢山の親子連れやデートのカップルがおります。
「あら?あそこのバクはベルナール様に似てますね」
「え?そうですか?」
「ニナ失礼だぞ?ベルナール様はあんなのっぺり顔をしてない。物凄いイケメンじゃないか」
いい感じですね。私がベルナール様を下げ、ラオルがベルナール様を上げる。これを繰り返せばBLなベルナール様はラオルにときめくでしょう。そしてベルナール様×ラオル×ブリスの三角関係が恋愛の促進力となり、一気にNTR達成!となる事間違いなし。
「あそこのミニ豚はベルナール様のお友達のブリス様に見えますわね」
「⋯⋯え?」
「おいニナ失礼だぞ!ベルナール様のご友人に対して豚などと」
うん順調。もう一息だわ。
「私喉が渇いてしまったわ。ベルナール様何か買ってきて下さる?」
「おい!」
「そうですね。少し休憩しましょう。ニナ嬢はあちらのテーブルで休憩してて下さい」
酷い婚約者から守ってくれる男⋯⋯トキメキますよね~ベルナール様の心は今頃ラオルとブリスの間で揺れ動いているでしょう。
「おいニナ!マジでベルナール様に失礼だぞ?!彼はお前の婚約者でしかも俺らより高位貴族だ!」
「そうねぇ。そうなのよ。本来であればここまでの攻防にはならなかったはずなのよ。どうしてかしらね?浮気しないのよ」
「は?何を言ってるんだ?浮気は良くないだろ?してはいけない事だろ?」
さて私のおかしなNTR願望をどう表現したらいいのかしらね?理解されないでしょうし、そもそもどうしてここまでNTRにこだわっていたのかしら?記憶が断片的なのよね。
あぁ確か日本で毎日工場の生産品みたいにクルクルとベルトコンベアの上を回転しているような人生に意味を見出せなかったんだわ。
だったら今はどうなのかしら?
「キャアイケメン!!」「私達と一緒に周りませんかぁ?」「ハアハア触ってもいいですか?」
ベルナール様に沢山の女性が群がっておりますね。そうでした、彼は超絶イケメンでした。
「おいニナ、ベルナール様何だか悲しそうな顔してないか?お前虐め過ぎなんだよ」
「え?そうですか?女性が苦手なのでは?」
「お前なぁ。だったらお前と婚約しないだろ?噂では毎日山ほど届く釣書に見向きもしなかったのにお前との婚約は即決だったらしいぞ」
「そうなのですか?何故でしょうね?」
「はぁ。だったら本人に聞けよ?俺はそろそろ帰るぞ、じゃあな!」
「えー?」
――ベルナール――
今日は休日。ニナ嬢から動植物園に誘われた。お茶以外の外出は初めてで何が起きてしまうのかドキドキだ。きっと毎日下種豚を動物園感覚で観察していたから、私を動物園からの脱走豚だと思って動物園の檻に仕舞うつもりかもしれないな。
「ベルナール様ごきげんよう」
「ニナ嬢今日も美しいですね。その、隣の方は?」
「ラオル・フローランスと申します。始めまして」
え?この整った顔の男は誰だ?フローランス家は確か伯爵家だったか。まさかニナ嬢の噂の浮気相手じゃないよな?噂は本当だったのか?!
私はモヤモヤした気分に包まれる。
「ラオルが動物好きなのでお誘いいたしました」
「⋯⋯⋯⋯ええ。私は動物が好きなんですよ。ははは」
その男を呼び捨てで呼ぶの?ズルいじゃないか。私には様つきで呼ぶのに。
そして微妙な気分のまま三人で動物園へ入場した。
「あら?あそこのバクはベルナール様に似てますね」
「え?そうですか?」
私はバクに似てるのか?豚じゃなくて?バクかぁ。なんだかトロくてアホそうだな。ニナ嬢にとって私はアホそうに見えるのかもしれない。それもアリだな。
「あそこのミニブタはベルナール様のお友達のブリス様に見えますわね」
「⋯⋯え?」
ブリスは豚なのか?やっぱりニナ嬢はブリスもM豚認定していたのだな。少しモヤっとする。
「おいニナ失礼だぞ!ベルナール様のご友人に対して豚などと」
君はニナ嬢を呼び捨てするのか?!私の崇高な怒S様に対して⋯⋯こいつは敵認定だ!
「私、喉が渇いてしまったわ。ベルナール様何か買ってきて下さる?」
「そうですね。少し休憩しましょう。ニナ嬢はあちらのテーブルで休憩してて下さい」
普段であれば嬉しいご命令のはずがラオルがいるせいで悶々としてしまう。
私はできるだけ素早く飲み物を購入して席に戻ろうと思うがまたしても女性達に囲まれてしまう。
「キャアイケメン!!」「私達と一緒に周りませんかぁ?」「ハアハア触ってもいいですか?」
ちょっと本当に、今は心の余裕が無い。ニナ嬢を見ているとラオルととても親しげに会話をしているし、心なしか二人の距離も結構近く見える。
楽しいデートのはずが私は段々悲しくなってきて押さえていた感情が爆発した。